研究課題
本年度は内惻前頭前野の後方領域の機能とされている情動記憶に関して活動した.健常若年者を対象とする精神物理的実験によって自伝的な記憶に基づく情動的な環境が情動刺激の記銘に影響を及ぼすことを明らかにした.240枚の顔写真からなる相貌課題を作成し,健常女子大学生に24名に対し相貌課題を自伝的な記憶に基づく情動環境下と中立環境下で遂行した.結果,記銘時の自伝的な記憶に基づく情動環境下と中立環境下の違いによる相貌認知課題成績に明らかな差を検出できなかった(p>0.05).しかし,相貌課題刺激の情動値を環境下ごとに比較すると自伝的な記憶に基づく情動環境下では,正解した顔写真に対する情動値(0.15±0.21)が不正解の顔写真に対する情動値(-0.09±0.23)より明らかに高かった[t(23)=3.257,p=0.003].一方,中立環境下では正解/不正解による顔写真の情動値に明らかな差がなかった[t(23)=0.703,p=0.489].このことから,自伝的な記憶に基づく情動が生じた環境下では,顔刺激のような情動刺激の情動価が刺激の記銘に影響を与える可能性が示唆された.この自伝的な記憶に基づく情動の変化が新規の人物の認知に影響を与えることは新たな知見であり内側前頭前野機能を測定できる評価方法に繋がるだけでなく,将来的には認知症などの記憶障害を呈する対象者の新たなリハビリテーション方法の開発へと発展できると推測する.現在,学術誌への投稿に向けて準備中である.その他に脳機能画像研究実績としてパーキンソン病の視覚認知機能と局所脳糖代謝との関係をFDG-PETによる脳機能画像研究によって明らかにし(Sawada et.al.,2012),パーキンソン病患者の嚥下障害と関連した局所脳糖代謝低下領域についても報告した(Kikuchi et. al., 2013).
3: やや遅れている
交付申請書に記載した「研究の目的」を達成するために本年度は,内側前頭前野の後方の領域と関連した健常者を対象とした研究を実施した.また,脳画像研究として2件査読付き英文雑誌に掲載され,一定の成果を得ることができた.しかし,内側前頭前野損傷例での研究が計画よりも遅れている面があり,次年度以降fMRI研究とともに進めていく必要がある.
平成25年度も継続して,新たな文献を追加しながら対象者への負担が最小限となるように神経心理学的研究およびfMRI研究を取り組んでいく予定である.神経心理学的研究は,内側前頭前野損傷例の確保のために協力依頼する施設の調整を行っていく.また,並行して実施するfMRI研究は,予備実験を踏まえて年度内のデータ取得・解析へと繋げていく.これらの成果を活用した内側前頭前野の機能評価法を検討していく.
平成25年度も継続して,新たな文献を追加しながら対象者への負担が最小限となるように神経心理学的研究およびfMRI研究を並行して取り組んでいく予定である.昨年度は,対象である内側前頭前野損傷例を予定通り確保できず謝金などの予算執行が滞った.そのためH25年度は昨年度までに執行できなかった予算を合わせて,研究協力者への謝金,データ取得に必要な施設使用料,効果的に研究を実施するための物品購入,データ取得,研究相談および学会参加に対する旅費を計上する.
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
BMJ Open
巻: 3(3) ページ: e002249
10.1136
PLoS ONE
巻: 7(6) ページ: e38498
10.1371