リハビリテーションにおいて腹内側前頭前皮質機能を評価する際に注意抑制機能である背外側前頭前皮質の機能の影響により左右され十分に測定できないことが臨床上で問題となる.今年度は記銘時の背外側前頭葉皮質と関連する注意抑制機能による腹内側前頭前皮質機能と関連する情動刺激に対する虚記憶への影響を測定できる評価方法の開発に向けた研究を実施した. 方法は,情動価と学習容易性を統制した単語リストを提示刺激として作成した.手順は,高齢者と若年者を無作為に全リストを学習する記銘群と最初のリストを意識的に忘れる忘却群に割り当てた.学習段階では,第1リストとして刺激リストのどちらかを1単語につき2秒間でパーソナルコンピューター画面中央に提示した.続いて残りのリストを第2リストとして同様の手順で実施した.そして90秒間の妨害刺激後,再認課題として,提示した単語と未提示の単語をランダムに並べた用紙を配付し提示された単語を選択させた.測定結果として課題再認時の虚再認の出現率を信号検出理論により算出し,その結果を年齢と刺激の情動価における比較検証をした. 結果,忘却群のみ年齢と情動価の交互作用に有意差を認めた(p<0.05).その後の検定の結果,単語リストのちネガティブ語の刺激において明らかに高齢者は若年者より低下しており(p<0.001),高齢者のネガティブ語の虚再認の出現率は,有意にニュートラル語の虚再認の出現率より上昇していた(p<0.05).よって加齢によるネガティブな刺激から意識的に注意を逸らす能力の低下が,虚再認を誘発させる可能性が示唆された. 本研究の結果から本課題を行うことで背外側前頭葉皮質と関連する注意抑制機能と腹内側前頭前皮質機能と関連する情動記憶とを測定することが示唆され,高次脳機能障害を有する対象者や認知症を有する対象者へのリハビリテーション方法の開発へとつなげることが期待できる.
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