本研究は、非侵襲的に脳の興奮性を変化させ、脳可塑性を誘導することが可能な経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の効果を、機能的MRI(fMRI)を用いて明らかにすることを目的としている。 最終年度にあたる本年度は、脳卒中患者のリクルートが困難となったため、健常者11名を対象に行った。介入は、以下の2種類の刺激を、1週間の間隔をあけて、無作為な順序で実施した。皮質興奮性を向上させる陽極刺激(Anodal tDCS; AtDCS)は、陽極電極を右半球運動野直上(経頭蓋磁気刺激を用いて同定した)、陰極電極を対側の眼窩上に置き、1mAの強度で10分間刺激した。対照となるsham刺激は、AtDCSと同じ設定で最初の15秒間のみ刺激した。各刺激中には、非利き手による指タッピング課題を1秒間に1回の頻度で実施した。fMRIは、AtDCSまたはsham刺激+運動課題の前および10分後に実施した。fMRIは、開眼安静と、非利き手の指タッピング課題を、24秒間ずつ、5セット繰り返すブロックデザインとした。結果、指タッピング課題中は、安静時に比し、右半球の一次感覚運動野を中心に広範な脳活動が認められた。AtDCS後には、課題中の一次感覚運動野の脳活動は、刺激前よりも有意に縮小したが、sham刺激後には変化がみられなかった。本研究中に明らかな有害事象を認めなかった。AtDCSのみを行った後、運動課題中の一次感覚運動野の脳活動は増加すると報告されているが、本研究によって、AtDCS中に運動課題を実施すると、脳活動はむしろ縮小するという結果を得た。運動学習中にAtDCSを実施すると、運動学習が促通されることが知られており、本研究の結果は、これを裏付けるものと考えられた。以上より、AtDCS中に運動課題を実施する有効性が、fMRIによる脳活動評価により明らかとなった。
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