本研究の目的は、実験動物ラットを用いた関節拘縮モデルに対して、治療介入を行い、関節構成体(とりわけ滑膜および関節包)に対する効果を形態・組織学的側面から明らかにすることである。 昨年度までに関節拘縮モデルを作成し、それに加えて治療介入として関節モビライゼーションを行い、その効果を報告した。関節不動化により、後部関節包はコラーゲン線維束間の間隙が減少し、全体として密な組織像を呈するが、関節モビライゼーション介入を加えることで正常に近い疎な組織像となることを確認した。関節包の密度を半定量的に計測したところ、介入を実施しない場合と比べ、統計学的に有意な差を認めるものであった。理学療法の分野で実施される拘縮の治療は、単に関節の他方を固定して引っ張るだけの伸張を加えるのではなく、関節包内運動を促す働きかけをしている。こういった治療は古くから行われてきたにも関わらず、基礎医学的な検討は全くされてこなかった。本研究は、経験則から生まれ広く用いられている手技の、科学的なエビデンスを構築する一助となるものであり、高い重要性を持つものと思われる。 平成25年度には、治療介入にLIPUS(低出力パルス超音波療法)を用いて、同じく関節拘縮に対する有用性を検証した。その結果、LIPUSによっても後部関節包におけるコラーゲン線維束間の間隙の拡大を認めた。介入を加えない場合との比較では明らかな改善を示すが、正常組織との比較では治癒の程度が不十分であることが確認された。LIPUSはこれまでに骨癒合の促進や軟骨再生、あるいは靭帯損傷に対する効果について報告されているが、関節拘縮に対して検討したものはない。本研究で得られた知見は、LIPUSが新たな拘縮治療に繋がる可能性を示し、大きな意義を持つと言える。
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