研究概要 |
近年、脳卒中後の麻痺や障害に対して、脳の可塑性変化に基づいた新たなリハビリテーションという概念が浸透し始め、積極的に麻痺回復を行う治療戦略に関心が高まりつつあるが、脳内の分子機構などについては未だ不明な点が多い。 我々はこれまでに、運動機能回復に関わる脳内機能的分子の検出、およびその分子的な機序について基礎医学面から裏付けることを目的として、脳梗塞モデル動物を用い、自発運動訓練による運動機能の回復過程を観察するとともに、大脳皮質におけるantibody array を用いた解析により、NGF, calmodulin, PKC, GAP43などのup-regulationが観察され、機能回復に至る脳内の分子機構にこれらのタンパク質などが関与している可能性について報告してきた。 そこで本年度は、脳梗塞モデルラットを用い自発運動訓練およびPKC活性化剤投与の有無による機能回復を運動学的解析により評価を行い、薬剤投与の有用性を検討した。 脳梗塞モデルラットはPhotothrombosis による大脳皮質脳梗塞を作製した。手術2日後から回転ケージによる自発訓練を行った群をExercise (EX) 群、訓練を行わなかった群をControl (CNT) 群とし、それぞれの群に対して、脳梗塞後5日目に薬剤もしくはその溶媒の投与を行った。運動学的機能評価にはrotarod testを用い、脳梗塞前と梗塞後2、4、6、8日後に評価を行った。 Rotarod testによる運動機能評価では、脳梗塞後8日目に溶媒投与EX群と比較して薬剤投与EX群の有意な歩行持続時間の増加が認められた。一方、薬剤投与CNT群では、溶媒投与CNT群と比較して、有意な歩行持続時間の変化は認められなかった。これらの結果より、薬剤投与のみでの機能回復は得られず、運動訓練と薬物併用療法が運動機能回復に有用であり、さらに訓練単独よりもその回復が増強されることが示唆された。さらに、薬剤用量依存性に歩行持続時間の増加傾向が認められた。
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