研究課題/領域番号 |
23700645
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
坂野 裕洋 日本福祉大学, 健康科学部, 助教 (00351205)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 筋萎縮 / 筋痛 / 筋損傷 / 廃用 / 熱刺激 / 身体運動 |
研究概要 |
平成23年度はラット足関節を最大底屈位にて4週間ギプス固定を行い、固定終了後の伸張刺激が疼痛に及ぼす影響を検証した。伸張刺激はギプス除去直後から2週間実施し、群設定はギプス固定を行わず通常飼育を行う対照群、ギプス固定を行い伸張刺激を行わない固定群、ギプス固定を行いギプス除去後に伸張刺激を行う固定+介入群の3群とした。逃避反応閾値の評価は腓腹筋に対してRandall-Selitto test、足底に対してvon Frey hair testをそれぞれ行い、組織学的検討は実験期間終了後に腓腹筋を採取して壊死線維の割合を計測した。その結果、固定群では対照群に比べ腓腹筋における逃避反応閾値が低下し、足底における逃避反応回数が増加し、壊死線維の割合は高値を示した。固定+介入群では固定群に比べて各指標が抑制された。これより、ギプス固定後の伸張刺激は疼痛を軽減する効果があることが推測された。以上の結果をまとめると、ラット足関節を4週間ギプス固定することで腓腹筋における逃避反応閾値の低下や足底における逃避反応回数が増加することが確認され、廃用性筋萎縮による筋痛の発生状況と実験モデルの有用性が明らかとなった。また、固定除去直後より廃用性に萎縮した骨格筋に伸張刺激を実施することで逃避反応が抑制されるとともに、壊死線維の割合を減少させ、逃避反応の抑制に影響していることが推測されたことから、身体運動や骨格筋加温、及びそれらを併用した治療介入によっても筋損傷や筋痛の抑制効果が得られる可能性が考えられる。平成24年度は、平成23年度に得られた結果を基礎資料として、骨格筋加温とトレッドミル走行を併用した治療介入を行い、行動学的、組織学的、生化学的指標を用いて介入効果を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、不活動に伴う骨格筋の退行性変化に着目し、筋萎縮とそれに伴う筋痛の病態を明らかにするとともに、骨格筋の加温と身体運動の併用が、運動時の筋傷害や筋萎縮からの回復過程に与える影響とその作用機序を解明することで、リハビリテーション医療における、廃用性筋萎縮の効果的な回復方法の開発に向けた基礎的資料を提供する予定である。平成23年度では、ギプス固定に伴う廃用性筋萎縮によって筋痛や固定部の痛覚過敏が出現すること、ならびにその後の通常回復過程について確認できた。また、身体運動時に骨格筋に加わるであろう伸張刺激の影響についても検討することができた。平成23年度で得られた結果を基に、平成24年度には同様のギプス固定モデルを用いて、骨格筋加温とトレッドミル走行を併用した治療介入を行い、筋萎縮や筋損傷とそれに伴う筋痛に与える影響について、行動学的、組織学的、生化学的指標を用いて検討することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、廃用性筋萎縮を呈した骨格筋に対して骨格筋加温と身体運動を行わせ、その際に発生する筋痛と筋萎縮からの回復効果について経時的に検討する予定である。具体的には、4週間のギプス固定を行った後にギプスを除去し、通常飼育に戻す。骨格筋加温とトレッドミル走行はギプス除去時より開始し、2日に1回のペースで実施する。飼育期間は、平成23年度と同様とし、同頻度でトレッドミル走行のみを行った群、ならびに骨格筋加温のみを行った群と比較する。評価は、筋痛の発生状況についてRandall Selitto testを行い、圧痛閾値の経時的変化を確認する。具体的には、各検索時期の下腿三頭筋に対し、一定の速度で連続的に増加する圧を与え、逃避閾値を測定する。また、各群それぞれのヒラメ筋と腓腹筋を検索材料として新鮮凍結切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い、病理所見の検索と筋横断面積の測定を行うとともに、マクロファージ、好中球、好酸球、CD4、CD8などの抗体を用いた免疫染色を実施し、単核細胞の浸潤の詳細について検討する。加えて、筋細胞膜の裏打ちタンパクであるジストロフィンの免疫染色とEvans Blue生体染色法を実施し、筋細胞膜の形態的、および機能的変化を検討する。その他にも、筋抽出液を作製し、SDS-PAGEポリアクリルアミド電気泳動法を用いたWestern blot法を行い、筋組織内のストレスタンパク質(Hsp70、Hsp25)とミオシン重鎖(MHC)、P70S6kiaseとFox03の含有量を定量する。また、一部の試料については、既存のELISAキット、またはEIAキットを用いて、成長因子(IGF-1、FGF)、ならびに炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、IL-10、TNFα、PGE2)を吸光度測定装置により定量する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に行う研究についても、研究代表者が主に行う予定であるが、実験技術の一部についての協力・支援を長崎大学と名古屋大学の知人に依頼しており、研究代表者が長崎大学や名古屋大学へ赴く予定である。そのため、研究打ち合わせ旅費が必要である。また、これらの検索は、すべて現有機器で実施可能であるが、実験用ラット、抗体や試薬等の購入が必要である。また、平成23年度に得られた結果について、国内外の疼痛関連学会やリハビリテ-ション医学関連学会にて発表を行うとともに、得られた結果をまとめ、短報、または研究報告を作成し、国内外の疼痛関連、またはリハビリテ-ション医学関連の雑誌に投稿する予定である。それに伴い、研究成果の発表に際して旅費が必要となる。加えて、研究成果の国内・国際誌への投稿に際しては、外国語校閲料や論文投稿料などが必要となる。また、平成23年度は行動学的検討と組織学的検討に多くの時間を要したため生化学的な検索を行うことができなかった。そのため、予定匹数のラットや抗体キットの購入を行わず、未使用見込残高が490,000円となった。この未使用見込残高については、引き続き、平成23年度に作成した検索試料をもとに生化学的な検索を行うための抗体やキットの購入にあてるとともに、今年度Milan(Italia)で開催されるInternational association for the study of pain(IASP)へ情報収集と意見交換のため参加予定であるため、その参加費および旅費に使用予定である。
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