本研究の目的は、(1)認知症の原因疾患の中で最も多いアルツハイマー病(AD)患者の聴覚障害の特徴を明らかにすること(第一研究)、(2)聴覚障害が認知症者の認知機能に及ぼす影響を横断的・縦断的に、またMini-Mental State Examination(MMSE)下位項目の分析から明らかにすること(第二研究)、(3)MMSEの聴覚障害例に対する適正な実施法を検討すること(第三研究)、である。 分析の結果、以下の点が明らかとなった。 (1)AD患者の聴覚障害罹患率は96.1%と高かった。また、オージオグラム聴力型は、高音障害漸傾型61.0%、高音障害急墜型20.7%、不定型8.5%、混合型6.1%であり、高齢者とは高音障害漸傾型に続く聴力型の順序と割合が異なっていた。 (2)横断的調査では、聴覚障害を持つAD患者はMMSE遅延再生項目が低得点、言語検査漢字・仮名書字項目が高得点であった。縦断的調査では、中等度以上の聴覚障害はAD患者の1年後のMMSE総点に影響を及ぼさなかった。 (3)MMSEの聴覚障害例への適正な実施法として、軽度聴覚障害者には、教示の呈示音圧増強・口形呈示が、中等度以上には一部項目の音声と文字呈示(MMSE for person with hearing loss)が、聴覚障害の影響を軽減し得る適正な実施法と考えられた。
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