申請者は脊髄損傷後早期に発生する痙縮の増加によって運動機能の回復が障害されるという仮説を検証するため、前年度に著明な痙縮を示す動物実験モデル(痙縮促進モデル)を確立し、行動学的解析・神経生理学的解析・組織学的解析による評価方法を検討した。比較解析に用いる痙縮抑制モデルの作成にあたり適切な抑制効果を得る条件が定まらず研究期間内に確立することは困難と考え、当該年度は圧座損傷後に尾懸垂法を施行しない自然経過群(自由歩行のみ)をコントロールとして痙縮促進モデルの解析を前年度に引き続き行った。まず歩行機能の回復について評価したところ、前肢と後肢の協調歩行の回復が不良となって歩容が変化しており、尾懸垂法の施行後より全荷重下での歩行訓練を施行するも明らかな改善を認めなかった。前年度の反射亢進に関する結果を踏まえ、損傷後早期より反射亢進を抑制することは歩行機能の回復に重要であることが示唆された。次に痙縮の発生メカニズムを探索するため歩行中枢が存在するとされる腰膨大部を中心に組織学的に解析したところ、シナプスに特異的なタンパク質であるSynapsin-1の発現が増加し反射経路における運動ニューロンの質的変化を認めたことより反射亢進に関与する解剖学的変化が示唆された。メカニズムのさらなる解明を進めるにあたって新たな解析技術を要したため、米国カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校脳神経外科中枢神経系再生研究室のMichael S.Beattie教授の指導の下で解析を継続している。研究期間を通じて今後の研究に応用可能な動物実験モデルおよび複合的アプローチによる反射亢進の評価方法を確立することができ、痙縮の制御機構の解明に繋がるメカニズムの一端を明らかにすることができた。
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