研究課題/領域番号 |
23700660
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
塚原 淳 筑波大学, サイバニクス研究コア, 研究員 (70601128)
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キーワード | 歩行動作意思推定 / ロボットスーツHAL / 歩行支援 / 脊髄損傷 |
研究概要 |
本研究の目的は,歩行の直前に観測される動き(予備動作)を明らかにし,ロボットスーツHALを装着した完全脊髄損傷患者が,自らの意思で直感的に,歩行を実現することのできるシステムを開発することである。脊髄損傷患者のような重度下肢麻痺患者の場合,中枢神経系の損傷により,通常,HALを動作させるために必要な生体電位信号(BES: Bioelectrical signals)を検出することは非常に困難である。しかしながら,完全脊髄損傷患者にとって,歩行機能の再建は強い願望の一つであり,さらに,深部静脈血栓症や肺塞栓等の併発を予防するためにも,重度脊髄損傷患者用の歩行支援システムを実現することは,極めて意義がある。当該年度では,以下に示す評価指標に基づいて,提案した歩行意思推定器を有するHALによって歩行支援を受ける,重度脊髄損傷患者の歩行能力を評価した。 ・10m歩行テスト(歩行時間,歩数,ケーデンス) ・左右対称性(左右脚における床反力中心の分布,両脚支持時間) ・本システムを用いた歩行と長下肢装具を用いた歩行の比較 上記実証試験の結果,本システムは,両脚支持期における装着者の体重移動に応じて,遊脚速度を変化させながら歩行支援を遂行した。さらに,システムを装着した患者は,運動力学的および時間的観点から,左右対称な歩行を達成することができた。また,本システム使用時における床反力中心(CoGRF: Center of ground reaction force)の分布は,長下肢装具を用いた歩行と異なり,健常者のCoGRF分布に近い結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
はじめに,歩行時における両脚支持時間と遊脚速度の関係性を調査するために,健常者の歩行を解析した。これにより,重心移動によって遊脚の開始を推定するだけでなく,遊脚直前の両脚支持時間に応じて,遊脚速度を調整する歩行意思推定機能を開発することに成功した。次に,解析した結果に基づいて開発した機能を,ロボットスーツHALに構築し,実際の患者に適用するための事前実験を行った。この実験では,完全脊髄損傷患者を想定したマネキンを用い,提案する手法(動作意思推定機能,歩行制御則)の有効性の確認を行った。 当該年度では,脊髄損傷患者に対する実証試験(10m歩行テスト)を行い,システムの実現可能性を評価した。本試験は,患者に対してインフォームドコンセントを行った後,約3ヶ月実施した。試験協力者は,臨床的に完全脊髄損傷と診断され,下肢から健常者のようなBESを検出することは困難であるが,ロフストランド杖を使用することで,重心を移動させることができる程度の身体能力を有していた。そのため,システムは,首尾よく患者の重心移動を検出し,遊脚速度を調整しながら患者の歩行支援を達成することができた。また,歩行支援時における,左右脚間の両脚支持時間やCoGRF分布は,概ね対称的であった。この結果は,システムの適用により,歩行中のバランスを確保しながら,リズミカルな歩行を患者に行わせることができたという証拠を示唆する。 以上の結果を踏まえ,本研究成果を雑誌論文投稿中であり,このことから,現在までの達成度は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度では,重度脊髄損傷患者に対して,10m歩行テストを適用した実証試験を行った。今後の研究の推進方策として,試験から得られた結果および,試験協力者からの意見を基に,ハードウェアとソフトウェアの両側面の改良を行う予定である。 ハードウェアの改良に関しては,主に装着性の簡単化があげられる。現状では,1~2名の補助を必要し,装着にかかる時間は15~20分程度有する。これは,装着者の心的負担に繋がると考えられる。特に,足部の脱着に関しては,装着者自ら行うことが困難な構造であり,実用性を視野に入れる場合,容易に装着/脱着が可能な機構が必要である。 ソフトウェアの改良に関しては,本研究で提案した手法と,従来,HALの制御機能である「生体電位信号に基づく随意制御」を混在させた制御器を構築することで,下肢運動機能の回復が見込まれる患者に対しての歩行支援としても適用可能なシステムの開発を進めていく。また,より実用的な環境下を想定し,車椅子またはイスから立ち上がり動作,目的地までの歩行,座り動作といった一連の動作までの試験を実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画として,ハードウェアの改良に必要な購入費や金属加工費の使用に予定している。また,より実用的な環境下を想定した実証試験を行うために,車椅子や階段,障害物などの外部環境の整備に研究費を用いる予定である。さらに,昨年度と同様,論文校閲費や実験補助費に使用する。
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