本研究の目的は,歩行の直前に観測される動き(予備動作)を明らかにし,完全脊髄損傷患者が,直感的に歩行を実現することのできる外骨格型歩行支援システム(ロボットスーツHAL)を開発することである。前年度に実施した歩行実験の解析の結果,床反力中心(CoGRF: Center of ground reaction force)の移動ならびに体幹の姿勢変化が, 歩行意思の推定に有用であることが明らかとなった。また,通常歩行時においては,CoGRFの移動速度に伴い遊脚速度が変化する関係性についても解明した。これらの結果を基に,「歩行速度プロファイルを有する歩行意思推定アルゴリズム」を構築した。 当該年度では,構築した歩行支援システムの実現可能性を調査するために,実際の脊髄損傷患者に対して10m歩行試験(10MWT: 10-meter walk test)を実施した。さらに,本システムによる歩行支援と長下肢装具による歩行の違いについても検証した。試験の結果,構築したアルゴリズムによって,システム装着者(重度脊髄損傷患者)の歩行意思を検出すると共に,両脚支持期中におけるCoGRFの移動速度に応じた遊脚速度の推定,ならびに推定速度に対応した遊脚軌道が計算されることで,装着者の歩行支援を行うことができた。また,長下肢装具を用いた10MWTとの比較では,歩行時間とCoGRF分布の結果において,顕著に違いが表れた。システム適用時における歩行時間は,長下肢装具使用時に対して約27.7%短縮された。また,長下肢装具歩行では,足裏のつま先側にのみCoGRFが分布する歩容(前傾のぶん回し歩行)であったが,システムによる歩行支援では,踵側からつま先側まで万遍なく分布する歩容結果(ロッカーファンクションが正常に行われた歩行)となった。以上のことから,開発した歩行支援システムの有効性を確認することができた。
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