脳梗塞による運動機能障害のリハビリテーション支援機器の開発において、歩き出しに関わる脳部位 (歩行誘発野) の性質は、これまで十分に考慮されてこなかった。それらの部位は、脊髄へのパターン開始指令を出すだけではなく、歩行時の視線や頭部・体幹の姿勢も制御している。頭部には視覚、平衡感覚の受容器が集中しており、これらによる空間中の全身移動の知覚情報処理は、歩行の生成、制御において大きな役割を持っている。 ここでは、視線、頭部、体幹の動作と全身移動の関係性に特化したリハビリテーションを提案する。それらの関係性の制御モデルをヒト計測データに基づいて構築し、電動車椅子に実装し、機能障害患者のためのロボットシステムを構築する。1.これまでの研究で、歩行計測データから、体の各部位の関係性として水平面内の回転に注目すると、平均して視線が約600ミリ秒、頭部が約300ミリ秒、歩行方向および他の体部位よりも早く回転しており、視線や頭部が歩行方向や体部位の動きを予測しているという結果が得られていた。ここではその解析をさらに進め、歩行軌道の曲率に応じた予測時間を求めた。同時に、体の各部位( 視線、頭部、体幹、足部)間の時間差を求め、視線から始まりトップダウンで回転方向が伝搬することを確認した。力学的な側面だけに注目すれば、物体の運動は外力を起点として起こることから、床から足裏に受ける力を基準として歩行を記述することになる。しかし神経情報処理的には、頭部、体幹が基準となって運動が生成される。ただし足部は回転方向や遊脚期/立脚期依存性があり例外的な振る舞いを示す。 2.市販の電動車椅子のコントローラを変更して、モーションキャプチャによるリアルタイムの動作データを入力とし、上記で計測された頭部から進行方向への遅れを伴うシステムを構築し、操作性の評価を行った。
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