褥瘡発生・予防に関する力学的見地に基づく研究の多くは褥瘡の発生において最大の危険因子とされる圧迫力の挙動に視点が当てられ,ベッドのギャッチアップ時に生じるせん断力の挙動についてはそれほど知られていない.そこで健康な成人男性15名に協力していただき,褥瘡好発部位である後頭部,肩甲骨部,踵部および仙骨部に対して仰臥位姿勢におけるベッドの背上げ時,背下げ時下での圧迫力およびせん断応力を測定した. これによると,仙骨部における結果を除き,ベッド傾斜角の増加とともに圧迫力は減少しせん断応力が増加するといった傾向は呈さなかった.仙骨部付近は身体の重心に近いため姿勢を変化させることが難しい.さらに仙骨部以外の測定領域は皮膚表面の形状が丸みを帯びており,傾斜角の変化に伴いマットレスとの接地面が変動する.この二点が仙骨部において異なる挙動を示し,特に仙骨部において褥瘡が発生しやすい原因であると思われる.また,低反発マットレスは一般的なマットレスに比較して,圧迫力のみならずせん断応力も減少することも分かった. つぎに,仙骨部近傍の一部を骨,皮下組織,皮膚,マットレスの4層に分類した局所モデルを作成し,有限要素法による非弾性解析を実施し,ベッドの傾斜角が身体内部の応力状態に及ぼす影響について検討した. これによると,解析結果は実験結果と定性的には同様な傾向を呈しており,本解析手法により大まかな応力状態を確認できることがわかった.さらに,種々の仙骨形状を有するモデルに対してシミュレーションを実施したところ,仙骨部の形状の違いが皮膚表面の応力分布に及ぼす影響は小さいことがわかった.一方で,仙骨-皮下組織境界層における相当応力は仙骨部の形状により依存することが確認された.これは褥瘡の予防・軽減には皮膚表面の応力状態のみならず,身体内部の応力状態を詳細に検討する必要があることを意味している.
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