研究課題/領域番号 |
23700669
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
荒木 望 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10453151)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 筋電義手 / 表面筋電信号 / 関節角度推定 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は,表面筋電信号から指の関節角度を推定することで自由度の高い制御を可能にする実用的な筋電義手を開発することであり,この目的を達成するために本年度は「表面筋電信号から指関節角度を高精度に推定する信号処理手法の確立」および「推定した手指関節角度を再現するための実用的な筋電義手の構造提案と試作」を行った. 信号処理手法に関しては,研究代表者が既に提案している表面筋電信号から複数の指関節角度を同時に推定する手法を元に拡張を行った.この手法には指関節を屈曲状態で保持した場合に角度推定値が振動的に変化するという問題があり,物体の把持などの日常生活で必要となる動作を行うことが困難であった.この問題点に対して本年度は屈筋側の表面筋電信号におけるパルス状の波形の出現頻度が屈曲を保持すると減少するという特性を確認し,この特性を利用して表面筋電信号から屈曲保持状態を識別するとともに,屈曲保持状態と判断した場合に角度推定値を固定(ホールド処理)することで推定値の振動的な変化を抑制する新しい手法を提案した. 実用的な筋電義手の構造提案と試作については,本年度は実用的なシステムの構築を目的として,指1本分のロボット義手(義指)の試作と,試作したロボット義指の駆動に必要な周辺機器(モータコントローラおよび生体アンプ)の小型化を行った.ロボット義指についてはワイヤ・プーリ駆動機構で2関節駆動可能である,成人の第2指とほぼ同サイズの試作機を製作した.また,周辺機器については,仕様を決定した上で製作を依頼し,モータコントローラ(2系統)および生体アンプ(2Ch)ともに111.3mm×75mm×25.2mmのボックスに収まる大きさとすることができた. また,本年度は試作した義指システムに上述の信号処理手法を実装し,健常者による検証実験を行い,システムとしての動作確認を完了した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる目的は,表面筋電信号から指の関節角度を推定することで自由度の高い制御を可能にする実用的な筋電義手を開発することであり,この目的を達成するために本年度は「表面筋電信号から指関節角度を高精度に推定する信号処理手法の確立」および「推定した手指関節角度を再現するための実用的な筋電義手の構造提案と試作」を行った. 本研究で期間内に行うことは,1.表面筋電信号から指関節角度を推定する手法がもつ実用上の問題点を解決する手法の提案,2.提案手法を実装した義手の設計・試作,である.このうち,1.については従来法における問題であった角度推定値の振動的な変化を抑制する新しい手法の提案を行った.この提案手法は,角度推定値が振動的となることに対する根本的な解決策ではないものの,健常者を被験者とする実験による検証の結果,良好な結果が得られたことからも,おおむね順調であるといえる. また,2.の義手の設計・試作については,指1本分で2関節駆動可能な指型ロボットの試作機と,試作機を駆動させるための小型モータコントローラおよび生体アンプの製作を当初計画通り本年度中に終えることができたので,順調であるといえる. ただし,上述の通り,信号処理手法については根本的な解決策を検討することができなかったこと,また,指型ロボットおよびその周辺システムについては,システムの構築までに時間が掛かったことから,当初予定していた研究成果の学会等での発表が遅れており,これについては次年度に研究の遂行と並行して行っていくものとする.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,まず本年度試作した指1本分のロボット義指システムにおけるハードウェア上の問題点を解決することを目指す.問題点としては,1.今回の指型ロボットはワイヤ・プーリ駆動機構となっているが,ロボット指の屈曲時にワイヤが弛み,屈曲角度によっては制御が良好に行えない部分が存在する.2.現在はモータが手の甲部分に取り付けられており,装着時にモータが邪魔になる.といった点が挙げられる.これらについては次年度の研究内で構造の検討と設計・試作を行っていく. また,当初の計画からの変更点としては,本研究を遂行する上で助言を受けている東京大学大学院情報理工学系研究科の満渕邦彦教授が行っている研究に,本研究の信号処理手法と指型ロボットを使用することとなったことである.この研究はマイクロニューログラム法と呼ばれる,針型の神経電極を先端部が神経束内に到達するように経皮的に刺入して神経信号の計測および神経刺激を行う手法を利用し,義手が物体を把持した際の圧感覚を神経を介してフィードバックすることにより感覚フィードバック機能を有する義手の可能性を検討するものである.この研究は最終的に期待される成果が感覚フィードバック機能を有する義手という画期的なものであるため,積極的に参加したいと考えている. このため,次年度以降では当初の計画に加えて,神経信号の処理なども行っていく予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,当初数回を予定していたロボット義指の試作が,実験および周辺機器の製作などの関係により1回となってしまったことと,予定していた学会等での成果報告が遅れていることから,一部予算を次年度に使用することとなった. 次年度の研究費については,当初の予定通りロボット義指システムの試作用部品の購入および学会等での成果報告に関わる旅費として使用する.また,次年度に使用することとなった本年度の一部予算については,本研究の遂行について助言を受けている東京大学大学院情報理工学系研究科の満渕邦彦教授が行っている実験に参加する際の旅費としての使用を計画している.これについては,実験の目的が「感覚フィードバック機能を有する義手の実証実験」であり本研究とも密接に関連していることと,実験自体が機材等の関係から研究代表者の所属機関では実施不可能であることから,実験参加の旅費は研究を遂行する上で必要な予算であると考える.
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