研究課題/領域番号 |
23700676
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中後 大輔 関西学院大学, 理工学部, 講師 (90401322)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 起立支援 / 人間支援ロボット / センサフュージョン |
研究概要 |
本研究は,高齢者個々人に適する起立支援のため,複数の生体情報および分散協調系の筋肉の共同発揮機能を統合して起立動作モデルの設計論を確立することを目的とする.本目的を実現するために,高齢者の各種生体情報を入力として,本研究で構築する高齢者の起立動作モデルから生体の低下部位を特定し,その情報を基にして,起立支援法を決定することを行う.本年度は,起立支援装置を用いた高齢者の起立動作のパターン化を行った.具体的には,申請者が開発中の起立支援機構を用い,被験者に装置の補助を受けながら起立動作をしてもらい,その時の身体の動きおよび床・椅子・起立支援装置にかかる力を,モーションキャプチャ装置,フォースプレートおよび体圧測定装置を用いて測定した.同時に,起立動作に関係があると言われる大腿直筋等の筋電波形も測定した.さらに,身体力学的な状態を模倣する人間モデルに,生体データを入力として与えることにより,起立動作に必要な各関節(膝関節等)を動かす筋肉の弱り具合が起立動作に及ぼす影響を身体力学的に解析した.研究計画では,筋肉の弱り方をあらわすパラメータとして1. 最大駆動力……筋力そのものが低下した状態を再現2. 駆動信号の時間遅れ……反射神経,運動神経が低下した状態を再現を予定していたが,2.をパラメータとして用いた場合,有意な結果が得られなかった.これは,人間の動作は跳躍度を最小とする軌道をとることが知られており,人間の動作はその場の動きに応じて逐次フィードバックが行われる動作ではないことが原因と考えられる.現在,この問題に関する対応策を研究しており,筋肉の弱り方,特に反射神経,運動神経が低下した状態をよく再現するパラメータが実現できれば,高齢者個々人の身体状態に適した起立動作パターンの導出手法を確立できる段階まで研究を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,本来今年度,1.起立支援装置を用いた高齢者の起立動作解析,および2.筋肉の共同発揮に基づく起立動作のモデル化を実施予定であったが,現在の進捗状況は1.を終了する段階であり,当初の研究予定より三ヶ月程度遅延している.その原因は以下の二点であると考える.一点目は,東日本大震災の影響で当初,経費執行が分割されたため,高齢者の起立動作解析を行う上で必要不可欠な起立支援装置組込型センサシステムの製作が遅れたことにある.これによる被験者実験の遅れが研究全体の進捗に影響している.二点目は,「研究実績の概要」でも述べたが,高齢者の筋力の弱り方をあらわすパラメータとして予定していた,反射神経,運動神経が低下した状態を再現するパラメータである駆動信号の時間遅れが,高齢者の動作をうまく表せないことがわかったからである.本年度この問題の解決に取り組み,その結果,人間の動作は無駄のない巧みな動作であるという前提で動作設計されている,と仮定することが重要であることがわかった.具体的には,無駄のない巧みな動作とは跳躍度が最小になる軌道設計であり,人間はその軌道をあらかじめオープンループ的に動作すると仮定する.その上で,その軌道を再現するために必要な筋力の俊敏さを悪化させるパラメータ,具体的には発揮できる加速度に制限を設けるパラメータが,高齢者の動作をよく表すことがわかった.この知見は本研究では当初予定していなかったが,高齢者の人間特性を表す重要な知見であると考えており,次に予定している研究課題である2.筋肉の共同発揮に基づく起立動作のモデル化に大きく貢献すると思われる.以上より,現在研究は予定より遅延しているが,予定外の重要な知見が得られたこと,またその知見が本研究の目的実現のために有効であることから,今後はこの遅延を十分に回復できると確信している.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,以下の二点について研究を遂行する.1. 筋肉の共同発揮に基づく起立動作のモデル化本年度の実験結果より,筋肉の共同発揮現象を抽出する.具体的な抽出方法は,人間の腕の動作を対象とした先行研究で有意な結果が報告されているシナジー解析を用いる.シナジー解析を行う上で,波形抽出に必要なシナジー数の導出には,観測波形の分散に着目することでロバスト性が高いとされる交差検証法を用いる.さらに,その係数を用いてシナジー解析にて筋肉の共同発揮を抽出し,昨年度計測した起立動作時の身体の動き(より具体的には,各関節の角度変化)等の実動作と筋肉の共同発揮現象を時系列で比較し,その対応関係を明らかにする.2. 生体機能低下部位推定手法とそれを用いた起立動作支援法の構築本年度実現した人間モデルと上記の筋肉共同発揮の対応付け結果を用いて,起立動作を行う高齢者の生体機能が低下した部位を推定する手法を開発する.具体的には,起立動作中に得られる筋電波形から筋肉の共同発揮を検出し,該当する動作を割り出す.さらに,割り出された動作と,高齢者が実際に行い計測された動作とを比較し,動作の差異を生じる原因となっている生体部位とその衰退度合いを推定する.さらに,推定される,その高齢者の筋力を最大限発揮させながら足りない筋力を補う起立支援方法を,開発中の起立支援装置をテストケースとして検討・実装する.現在予定している手法は,起立動作のその瞬間に高齢者が発揮できると推定される筋力と,支援装置を用いた起立動作を行うために必要とされる筋力を比較し,不足する筋力分のみを補うよう起立支援システムのアクチュエータに適切な力制御を行うものである.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は実施予定であった2.筋肉の共同発揮に基づく起立動作のモデル化の実施が遅れたため,本研究分に用いる予算の執行が遅れた.一方,本年度実施した1.起立支援装置を用いた高齢者の起立動作解析より,人間の起立動作は無駄のない巧みな動作としてあらわされることが明らかになった.また,無駄のない巧みな動作は跳躍度を最小とする軌道で近似できることもわかった.このことから,起立動作支援は力を補いながら随時被験者の状態にあわせて軌道を変更する手法ではなく,動作開始時における被験者の体の動きをトリガーに動作全体を予測し,動作開始後は一気に予測される起立動作を実現する支援方法が必要とされる.また,その動作中に足りない筋力の補助・身体バランスの維持をアシストする必要もある.そこで,次年度は一部予算を組み替え,人間の巧みな動作機能を引き出すため,開発中の歩行器に対して改造作業を行う.具体的には一連の動作を人間の自然な速度で実現するために,支援動作の高速化(それに対応する各構造部材の強化,アクチュエータ・ギアの交換等)改造加工を行う.また,動作が高速化するに伴って安全対策として,構造部材の突起部分へのラバー加工による被験者接触時のリスク低減を図る.同時に,動作開始時における被験者の体の動きを高精度で計測する必要があるため,体圧分散測定装置を追加購入し,起立支援装置の支援パッド部に設置する.
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