研究課題/領域番号 |
23700682
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 はま 東京大学, 教育学研究科(研究院), 特任准教授 (00512120)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 発達 / 乳児 / 四肢運動 / フィードバック / 場 |
研究概要 |
生後数ヶ月の乳児が、自己と環境の関係性を発見し、その関係性の中で行動を自己組織的に変化させていく過程を理解することをめざし、本年度は、乳児から得られる四肢の運動情報を、音響情報に変換して乳児にフィードバックするシステムを開発するための基礎データの取得をおこなった。特に、乳児が生成する運動情報の、量的・質的特徴を詳細に解析することにより、フィードバックシステムに利用可能な情報の探索をおこなった。 生後3ヶ月の乳児(約100名)を対象に、自発運動時および環境との相互作用時(自己操作が可能な玩具で遊ぶ際)の四肢運動の特徴を、三次元動作解析システムによって計測した。本研究は、データに含まれる情報を詳細にとらえることを目指しており、本年度はこれまで進めてきた四肢運動の速度情報を中心とした量的特徴だけではなく、四肢間の運動の関係性を中心とした運動パターンの質的特徴を定量的に明らかにすることができた。 また、新生児(約150名)の運動データ(前年度までに取得済み)についても、量的・質的側面の特徴抽出を試みた。このデータについては、新生児における運動特性が、3歳時点での発達段階(発達検査や医師の診察による)と関連性があることが明らかにされた。すなわち、3歳時点で発達の遅れがある児や脳性麻痺の児は、新生児の時点における運動特性が、定型発達の児の運動特性と異なることが示された。 このような本年度の取り組みから、新生児および乳児における運動特性を豊富な指標で捉えることが可能になり、それらの指標の特性を生かしたフィードバックシステムの開発の基盤となる情報を得ることに成功した。また、対象群による運動特性の違いは、児と外界とのコミュニケーションパターンにおける多様性を示すものであり、個人の持つ特性に適切なフィードバック様式の必要性を強く示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、乳児の四肢運動をもとにして、外界からの音響情報のフィードバックシステムを開発するフェーズとして位置づけた。フィードバックシステムを有効なものにするためには、乳児の生成するどのような運動情報を基盤データとするかを決定することが重要な課題である。そこで、本年度は、乳児から得られた運動情報を様々な側面から徹底的に検討してきた。その結果、複数の特性(指標)を抽出することに成功した。 しかしながら、適切な指標の抽出に時間要したため、それらの指標を使ったフィードバックシステムの試験的な作動にまで至らなかった。したがって、当初計画していた、フィードバック情報の提供による乳児の行動の変化の観察をおこなうことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度に明らかにしてきた乳児の四肢運動から得られた指標をもとに、音響的フィードバックをおこなうシステムを作動させることを目指す。まず、フィードバックをおこなうことによる乳児の行動の変化を観察し、その上でフィードバックの様式をさまざまに変化させる(たとえば、フィードバックの強度や種類を変化させる)ことによる、乳児の行動の柔軟性・安定性について解明する。 また、本年度の研究活動を通して、乳児が自発的に生成する運動情報として、四肢運動によって得られる情報に加えて、眼球運動によって得られる情報もより豊富で有用である可能性が明らかになった。視線の情報は、本研究が最終的に目指す、乳児と他者のコミュニケーションにとっても外すことのできない情報であると考えられる。そこで、眼球運動も研究対象に取り込みながら、乳児の生成する様々な運動が、彼らを取り巻く音響的な場を形成し、両者のコミュニケーションの場として機能する過程を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、システム開発のために、現有の三次元動作解析システムの改良(フィードバックシステムの組み込み)や専門的知識の提供に研究費を振り分けることになると考えられる。また、現在は大規模な三次元動作解析システム(計測用カメラ6台、制御用PC等を必要とする)を用いて、研究室にて計測をおこなっているが、乳児を取り巻く日常的な場面(たとえば家庭等)における計測を行うために、簡便かつ精度の高い計測環境を実現する必要がある。したがって、Kinect等の新たな計測システムの導入も検討している。さらに、すでに得た知見の公表(学会発表および論文投稿)にも精力的に取り組む予定である。
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