研究課題
様々な運動や行動に必要とされる視覚情報を正確に識別するためには適切な眼球運動が必要とされる。しかしながら、動く対象物の識別(視認)と眼球運動の相関を生理学的に明らかにする研究は少ない。本研究では、移動視対象に対する自己の主観に基づく知覚認知的観点であった「視認」レベルを眼球運動の生理学的解析から客観的に評価することに成功した。動く対象物への視認能力が高い人、すなわち動体視力が良い人は、まず、①対象物の出現とともにその方向へ短い時間で眼球を動かすことができる(眼球運動発現までの潜時が短い)ことが明らかになった。さらに、②動く対象物を眼で追う際の眼球運動の速度限界が高い(速い眼球運動が可能)ことも明らかになった。これらの眼球運動制御によって、③動く対象物と視線位置の視角誤差を“0°”に近づけることが可能となり、優れた動体視力能力を発揮する生理学的要因であることが明らかになった。また、眼球の網膜機能に由来する解像度は、動く対象物と視線位置の視角誤差が5°あると70%低下することが知られているが、④この解像度の能力は動体視力の優劣と関係のないことが示された。したがって、動体視力は①と②の眼球運動様式によってのみ支えられていることが示唆された。この結果は、ある体部位の筋を鍛えることでその部位が関係する運動能力を発達させるトレーニングと同様に、視認においても眼筋を鍛えることで眼球運動能力を発達させるトレーニングが有効であることが証明された。最後に、「眼球運動」や「視機能」のそれぞれに焦点を当てた研究は医学分野において多数行われていたが、それらを統合的に捉えた「視認」について調べた本研究は、学際領域であるスポーツ科学だからこそ取り組めた。より実生活やスポーツシーンに即した研究として大変意義のあるものとなったと考える。
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