研究課題/領域番号 |
23700688
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
栗原 俊之 立命館大学, スポーツ健康科学部, 助手 (10454076)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | MRI / 生体内計測 / 拡散テンソル / Tagging Snapshot法 / 超音波法 / 国際情報交流:フランス |
研究概要 |
ヒト骨格筋力発揮時の筋束動態の定量を行うため,拡散テンソル画像による筋線維追跡法の測定(研究1)および超音波法による筋腱動態の測定(研究2:実験計画3に該当)を行った。研究1:拡散テンソル画像による筋線維追跡法の測定精度の向上および妥当性の確認に関する実験を行った。拡散テンソル法で得られる拡散係数(ADC)には骨格筋の筋内水分量が影響する。そこで,まず,血液灌流の影響を除外するため,大腿部をカフで巻いて,200mmHgまで加圧して動脈を圧迫し阻血状態を保持した状態で,大腿部および下腿上部のADC値の測定を行った(被験者2名)。大腿部カフ締め時の拡散画像内では,動脈血管の信号値の低下が確認されたが,それに伴い筋内のADC値が低下した。次に,筋内に含まれる脂肪量の影響を考慮するため,プロトン磁気共鳴スペクトル法(1H-MRS法)により,筋内脂肪(IMCL)の定量を行った。筋内脂肪量は磁場と筋束のなす方向に影響されると言われているため,被験者5名に対し,足関節角度を変化させた際の下腿三頭筋のIMCLを計測した。その結果,足関節角度による影響は見られず,IMCL値はヒラメ筋>腓腹筋の順で,筋内脂肪の含有量に筋線維組成が影響する可能性が示唆された。最後に,加重負荷によるカーフレイズ課題前後のT2値変化(筋内水分量の指標)の測定を行った。その結果,運動課題直後にT2値が有意に増加した(ヒラメ筋 13±5%,腓腹筋23±7%増加)。以上のことから,拡散テンソル画像によるFiberTracking法では,血流還流,筋線維組成,事前運動の量などを考慮する必要があることが分かった。研究2:足関節底背屈0度における安静時と等尺性足底屈発揮時の腓腹筋腱移行部ならびに筋束動態の計測を行った。FiberTracking法による筋線維方向の算出を行い,超音波法による羽状角の測定値との相関関係を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画1~3を通じて使用する予定であった非磁性体のMR装置内用の筋力計の試作品を製作し,実際に画像を撮像してみたが,荷重がかかる部分の強度が低く何度も紐が切れたり,動作が安定しなかったりした。また,関節の固定精度が悪く,MR装置内で使用する際にモーションアーチファクトによるノイズが多くて精密な測定には堪えなかった。さらに,発揮した張力をフィードバックする非磁性体のトランスデューサーの手配が遅れ,発揮張力のフィードバックをすることができなかった。以上の点を改良するために,年度末に,類似した性能を持つ製品版の筋力計(価格800万円相当)を実際に使用している研究室(フランス,マルセイユ大学)を訪問し,使用しているところを見せてもらった。製品版では,機械の強度,固定器具の安定性は良かったが,実際に画像撮像した時のノイズは完全に消去できないことが分かった。しかしながら,機械に対しての具体的なイメージを得ることができたので,早急に筋力計を改良するために設計および機材手配を行う予定である。以上のことから,筋力計の設計・製作段階で大幅に遅れを生じ,本年度は実験計画1の一部と実験計画2に着手することができなかった。早急に筋力計の設計および改良を行い,非磁性体の筋力計を完成させる必要があるが,実験計画3は順調に進んでいるので,実験計画1,2の筋力計に依存しない部分については同時進行で実験を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
非磁性体のMR装置内用筋力計の試作機を改良し,等尺性で足関節筋力が測定できるようにする。筋力計が完成したのち,安静時に磁気共鳴スペクトル法(1H-MRS法)による筋内脂肪(IMCL)の定量ならびにT2値測定による筋内含水量の定量を行い,等尺性力発揮中に取得した拡散テンソル画像にそれらの結果ならびに収縮時のT2値変化を加味して,FiberTracking法により筋束角度の算出を行う。同時に超音波法を用いて部位ごとの筋束角度(羽状角)を求め,FiberTracking法の計測の妥当性を検証する。そののちに,収縮時の筋・腱組織全体の形状およびその変化を身体運動に近い状態で計測するために伸張・短縮性運動をMR装置内で実現できるような非磁性体の等負荷性伸張・短縮運動用の筋力計を製作する。製作した筋力計を用いてTagging Snapshot法による筋腱動態の計測を行う。なお,日本磁気共鳴医学会において2010年度より組織されたスタディーグループ"筋MRI&MRS研究会"に属している同様の研究をしている研究者ならびに海外の研究者(フランス,マルセイユ大学,David Bendahan氏)との連携を密にし、必要に応じて共同研究や意見交換を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
MR室内で使用できるような非磁性体の筋力計を製作するための機材ならびに発揮した張力をフィードバックするためのトランスデューサの購入が必要である。足関節用の筋力計は,足関節の固定具とフットプレートに生じる回転トルクを測定する機器があれば十分であるが,非磁性体の資材で,それらの強度をある程度強く保つために補強が必要である。また,等尺性筋力計が完成したのちに,等負荷性伸張・短縮運動用の筋力計を製作する。その際に,油圧式モーターの導入を考えている。以上の機器・資材および工作費に研究費の多くを充当する予定である。また,筋力計の製品版を所有している研究者との実験協力やスタディーグループの打ち合わせなどが必要になる。国内外の研究者とは,主に,学会会場で打ち合わせを行わうため,学会参加のための旅費を計上する。実験計画1~3は筋力計が完成した後に本格的に行われるが,その際に実験協力の検者・被験者への謝金が必要となる。
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