運動をうまくコントロールするためには、運動する身体部位からの感覚情報と運動出力情報の感覚運動統合が重要である。本研究では、脳科学的手法を用いて、運動のコントロール時における感覚運動連関に関わる神経機構を解明することを目的として、自己が主体となって「運動」を行っている時の身体部位の自己認識(コントロール感)に関連する神経基盤を明らかにするものである。 運動をうまくコントロールしていると感じる時、運動指令から計算される感覚情報のフィードバックが、実際の感覚情報のフィードバックとの誤差と一致していると考えられる。また、運動がうまくコントロールされていないと感じるときは、運動の予測と実際の感覚情報のフィードアックに誤差が生じていることが考えらえる。本研究では、運動を行っているときに実際の運動とは異なる感覚情報を提示する条件を設定し、その時の脳活動を脳磁図で計測した。 実験の結果、運動中に意図した身体部位の運動とは異なる視覚情報が提示されたとき、二次体性感覚野、島皮質、頭頂葉の活動に変化がみられた。先行研究では、頭頂葉は視覚と体性感覚の統合する脳部位であり、島皮質は自己の運動の主体感に関与する脳部位であると報告されているが、本研究から二次体性感覚野も同様の機能を持つことが明らかとなった。二次体性感覚野は、触覚情報処理の高次領域であると考えられているが、運動時の視覚情報と体性感覚情報の統合に関与することから、この領域は高度な運動制御に関連することが明らかとなった。次のステップとして、これらの領域の活動を人為的に変化させることで、運動学習を促進できるのかを明らかにするために、経頭蓋直流電流刺激を提示して二次体性感覚野の興奮性を変化させることが可能であるのかを検証しつつ、有効な刺激法の確立を目指している。
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