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2011 年度 実施状況報告書

運動修正技能の熟達に関わる中枢メカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 23700724
研究機関鹿屋体育大学

研究代表者

中本 浩揮  鹿屋体育大学, スポーツ・人文応用社会科学系, 講師 (10423732)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード運動修正 / 抑制機能 / 再組織化 / 熟達化 / スポーツ / 認知 / 知覚
研究概要

我々の生活空間における状況は絶えず変化する.そのため,状況に応じた行動の修正は,合目的的かつ適応的に振る舞うために不可欠な能力であるが,加齢や障がいによって,行動調節能力は低下する.一方,1秒にも満たない厳しい時間的制約下で,環境変化に対する運動の修正を求められるスポーツの熟練者は,素早く正確な運動修正が可能であることが知られている.よって,熟練競技者の運動修正能力に関わる中枢メカニズムの解明は,これまで機能低下に焦点があてられた研究とは異なり,運動修正に関わる新たな脳機能の同定やその可塑的変化を明らかにできると考えられる. そこで,本年度は,運動修正の認知プロセスの中でも運動の再組織化に焦点をあてた.実験課題は,移動する標的の到達に合わせてタイミングよくリーチング運動を行う一致タイミング課題を用いた.この際,実験参加者のリーチング運動の修正を誘発するために,標的の移動速度が途中で急激に変化する加速課題を用いた.さらに,運動の再組織化に関与する脳部位を同定するために,経頭蓋磁気刺激を用いて,運動修正を誘発する速度変化時,100ms後,200ms後に,前補足運動野および運動野へ磁気刺激を行った. その結果,前補足運動野および運動野への磁気刺激を与えた条件では,磁気刺激が与えられない条件に比べて,いずれもタイミングの正確性が低下した.また,標的の加速に対するリーチング動作の加速に関して,標的加速時および100ms後に運動野を磁気刺激した場合,リーチング動作の加速度が磁気刺激のない条件よりも低下し,標的加速から100ms後および200ms後に前補足運動野を磁気刺激した場合,リーチング動作の加速度の低下が見られた.以上の結果は,運動野と前補足運動野が運動修正に関与していることを示すと同時に,両者の間に運動再構築のためのネットワークが形成されている可能性があることを示唆する.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の主要な目的は,運動修正技能の熟達に関与する中枢メカニズムを解明することである.そのための具体的な達成目標として,(1)運動修正に関与する脳部位の同定,(2)運動修正に関与する脳波成分の同定,(3)運動修正の熟達とそれら測定指標との関連を明らかにすることをあげている. 現在まで,(1)運動修正に関与する脳部位の同定として,経頭蓋磁気刺激による脳部位への刺激が運動修正のパフォーマンスに与える影響を検討し,右下前頭回,補足運動野,前補足運動野,運動野の関与が明らかになってきた.これらの脳部位は,それぞれ抑制,事前の運動計画,運動計画の更新,感覚情報の検出といった機能があることが明らかにされており,本研究で対象とする運動修正で想定してきた認知プロセスと適切に整合性が取れている.よって,目標(1)は概ね達成されたといえる. 以上の成果を踏まえ,次年度以降,継続的に脳部位の同定を進めるとともに,脳波測定を加え,運動修正に関連する脳波成分および電源推定を行っていくが,実験課題や装置の準備に関しても今年度,および次年度以降で達成できる見込みである. 以上の点から,現在までの達成度を「概ね順調に進展している」と自己評価した.

今後の研究の推進方策

時間的な運動修正の中枢処理には,一度計画された運動を抑制し,新たな環境に適応するように運動タイミングのパラメータを再構築する再プログラミングが必要であると考えられている (Teixeira et al., 2006).これまで,空間的変化に対する運動修正には脳の後頭頂皮質や前補足運動野が関与することが明らかにされているが (Desmurget et al., 1999; Leuthold et al., 2002; Vidal et al., 1995),時間的変化に対するタイミング修正の処理過程や脳部位については明らかにされていなかった.この点を明らかにするために,前年度は,経頭蓋磁気刺激を用いて,前補足運動野,運動野の関与を明らかにしてきた. 今後は,脳波を用いて運動タイミング修正時の脳の応答を測定する.数多くある脳機能計測装置の中でも脳波は時間分解能が最も高いため,短潜時で行われるタイミング修正の中枢処理過程を明らかにできる.さらに,頭皮上の高密度な電極配置による脳波測定から特定の脳波成分の発生部位を推定することができる (Scherg & Berg, 1996).これらの分析を通して,運動修正に関与する脳部位と部位間の時系列的なネットワークを明らかにする. また,同定された脳波成分を用いて,成分の変動がタイミング修正の良否を説明できるかについて明らかにする.さらに,打球運動の熟練者と初級者の脳波成分の出現潜時および成分の出現量を比較し,運動修正技能の熟達に関与する中枢処理過程を明らかにする.

次年度の研究費の使用計画

本研究では,リーチング運動による一致タイミング課題を行うため,現有の装置を増設する必要があった.よって,機器の精度を確保するための費用として,リーチング記録装置増設費を平成23年度に計上した.次年度以降に関して,脳波記録や磁気刺激を同期するための刺激呈示装置の改良や刺激呈示装置と外部信号との接続を考えた場合,装置の構造を熟知した専門的技師による知識の提供 (プログラミング) が不可欠となる.そのため,申請者の所属期間が所有しているLEDを使用した一致タイミング装置のプログラム変更費を計上する予定である. また,実験に関わる消耗品として,脳波キャップ,筋電図用電極,測定用ゲルの購入や研究成果の公開に必要となる旅費として,研究費を使用する予定である.

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2012 2011 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Experts in fast ball sport reduce anticipation timing cost by developing inhibitory control2012

    • 著者名/発表者名
      H Nakamoto, S Mori
    • 雑誌名

      Brain & Cognition

      巻: 80(1) ページ: 23-32

    • DOI

      10.1016/j.bandc.2012.04.004

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Kinesthetic aftereffects induced by a weighted tool on movement correction in baseball batting2012

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Nakamoto,Yasumitsu Ishii,Sachi Ikudome, Yoichi Ohta
    • 雑誌名

      Human Movement Science

      巻: in press ページ: in press

  • [雑誌論文] スポーツ選手が心で「みる」世界~打球運動の場合~2011

    • 著者名/発表者名
      中本浩揮
    • 雑誌名

      トレーニング科学

      巻: 23(2) ページ: 113-120

    • URL

      http://trainings.jp/ronbun.cgi?kid=1076&rid=3

  • [学会発表] 骨盤の回転動作および体幹の捻転動作がバッティングのタイミング調整に及ぼす影響2011

    • 著者名/発表者名
      石井康光,中本浩揮,幾留沙智,太田洋一,高橋恭平
    • 学会等名
      日本体育学会第62回大会
    • 発表場所
      鹿屋体育大学
    • 年月日
      2011年9月27日
  • [学会発表] 重いバットでの素振りが打撃時のタイミング制御に及ぼす影響2011

    • 著者名/発表者名
      中本浩揮,石井康光,太田洋一,高橋恭平,幾留沙智
    • 学会等名
      日本体育学会第62回大会
    • 発表場所
      鹿屋体育大学
    • 年月日
      2011-09-26
  • [図書] 生涯スポーツの心理学~生涯発達の視点からみたスポーツの世界~2011

    • 著者名/発表者名
      杉原隆(編)中本浩揮(第10章)
    • 総ページ数
      12
    • 出版者
      福村出版
  • [備考]

    • URL

      http://www.nifs-k.ac.jp/property/researchers/syllabary/05/000447.html

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公開日: 2013-07-10  

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