環境の変化に合わせて実行中の運動を素早く修正する運動修正能力は,様々なスポーツで優れたパフォーマンス発揮に関連する重要な能力である.この運動修正能力を支える中枢メカニズムを明らかにすることを目的とし,昨年度までの経頭蓋磁気刺激を用いた研究では,優れた運動修正には,運動野と前補足運動野が関与していること,前補足運動野は動作の切り替え制御には関与するが,パラメータ調節には関与しないことが明らかになった. 本年度は,運動修正に関与する中枢機能を明らかにするために,脳波を用いて運動修正時の脳の応答を測定した.具体的には,移動する標的の到達に合わせてタイミングよくボタン押し反応を行う一致タイミング課題を用いた.この際,実験参加者のボタン押し反応の修正を誘発するために,標的の移動速度が途中で急激に変化する速度変化課題を用いた.脳波は72chの電極を用いて記録し,分析は速度変化時点から-200ms~1000ms区間の成分に関して行った. その結果,速度変化後200ms付近で陰性電位,300-500ms付近で陽性電位が確認された.これらの成分のそれぞれの信号発生脳部位を推定するために信号源推定を行ったところ,変化後200ms付近の陰性電位は帯状回,300-500ms付近の陽性電位は視床背内側核に由来していることが示された.前者は,エラー検出に関与し,後者は一時的な情報の操作や処理,また運動出力に関与しているとされる.また,両者は機能的連関を持っていることが報告されていることから,運動修正には,帯状回と視床背内側核を含む中枢ネットワークが関与している可能性が示唆された.
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