研究課題/領域番号 |
23700731
|
研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
内田 若希 北九州市立大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (30458111)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 障害者スポーツ / スポーツドラマチック体験 / 自己変容 |
研究概要 |
事故や病気のために身体機能や身体の一部を喪失することは,生活上の急激な変化や様々な喪失感,社会的存在の変化をもたらす経験である.一方,スポーツ競技への参加過程において,試合での逆転劇,予想を覆す試合結果,重要な他者との出会い,厳しい訓練の克服などは,多くの選手が体験する出来事である.このような,練習や試合の中で体験される,人生の転機ともなるような心に残るエピソード,つまり「スポーツドラマチック体験 (橋本, 2005)」は,自己変容を促す環境や時間・人・行動といったダイナミックな関係性をもたらすとされる. 申請者はこれまで中途脊髄損傷者のみを対象に,Fox & Corbin (1989) の自己概念に関する多面的階層モデルに準拠して,「身体的自己知覚」という身体的側面から,当事者の視点を切り口に検討を行ってきた.本研究では,これらをさらに応用し,様々な障害のあるトップアスリートを対象に,「スポーツドラマチック体験」を軸にしてよりダイナミックな関係性を踏まえた変容プロセスを探っていくことを目指していく. 本年度は,モデルを構成する要因の精選を行うため,論文講読をはじめに行った.そしてスポーツドラマチック体験を軸としたモデルの構成要因として,障害者スポーツにおけるスポーツドラマチック体験,自己肯定意識,身体的自己知覚などを選定し,大規模調査を実施した.加えて,競技歴や障害の種類,受傷経過年数等も調査した.現在,データの回収・入力が終わり,モデルの要因間の関係性やモデルの構造を検証している段階である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査を日本パラリンピック委員会に依頼したことで,競技レベルの高い選手を対象に調査を実施することが可能になった反面,調査先との調整に時間がかかった.また,調査実施前に,九州大学倫理委員会審査を受けて受理されたが,倫理委員会の審査に時間を要した.このため,調査時期が予定より数ヶ月遅れてしまった.しかし,現在はデータを回収し,データ入力まで終えたため,モデルの要因間の関係性やモデルの構造を検証している段階であり,おおむね順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度は,障害のあるトップアスリートを対象として,大規模調査を実施した.この結果を詳細に分析し,量的アプローチにより,スポーツドラマチック体験に伴う自己変容プロセスの関連要因に関して,心理・社会学的視点から包括的に検討をすすめる.また,これに加えて,今後はライフストーリー研究 (ナラティブ研究) を用いて,対象者の実際の経験から,スポーツドラマチック体験を通した受障から現在までのダイナミックな自己変容を検討することを目指す.具体的には,(1) 受傷後にどのように苦しみ,悩み,どのようにして競技を開始したか,(2) どのように競技に取り組んでいるのかという変化のプロセスや,(3) どのようなダイナミックな関係性の中で心理的・社会的変化が導かれたのか,(4) 実際に生じた重要な出来事である受障体験やスポーツドラマチック体験の及ぼす影響を明らかにしていく.
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では,スポーツドラマチック体験要因と,身体的自己知覚や社会的自己知覚,その他の関連要因との関係性を検討し,仮説モデルの検証をすすめる.モデルの検証にあたり,必要に応じて統計ソフトを購入する.また,得られた成果を取りまとめ,国内外の関連学会にて成果を発表するための旅費を計上する必要がある. さらに,障害のあるトップアスリートを対象にライフヒストリー研究を実施し,インタビュー調査を行うため,調査旅費や謝金が必要となる.加えて,質的データのトランスクリプトを実施するための謝金を計上する.
|