研究課題/領域番号 |
23700733
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研究機関 | 札幌大学 |
研究代表者 |
束原 文郎 札幌大学, 文化学部, 講師 (50453246)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 体育会系 / 大卒就職 / 大学から職業への移行 / レリバンス論 / 実業之日本 / 労働市場 / 企業スポーツ選手 |
研究概要 |
23年度は,1)戦前の体育会系就職に関する確認,2)関連分野における理論的位置づけの検討および道内私学の体育会系就職に関する調査集計,3)関連分野の専門家との意見交換,4)オリンピック出場者名簿の蒐集を行った. 1)は,「体育会系学生は就職に有利である」という社会的了解が,いつどのように生じたのかについて,明治末期から昭和初期にかけてビジネス雑誌『実業之日本』に掲載された記事を主たる資料として分析することで明らかにした(「<体育会系>就職の起源―企業が求めた有用な身体:『実業之日本』の記述を手掛かりとして―」).これは,戦後体育会系就職の変化の前提を問い,把握する作業と位置づけられた. 次に,2)において,主に教育社会学における<大学から職業への移行>に関する諸理論を概観し,体育会系就職の変遷を辿る本研究がいかなる先行理論の文脈に位置づけられるのかを検討した.その結果,レリバンス論,すなわち「大学で行われた教育内容やそこで培われたコンピテンシー(知識や技能の背後にある態度や価値観)で職業生活の状況を説明できる」とする理論文脈に位置すると考えられた.また,そうした視座から,道内私学の体育会系就職に関する調査データを集計分析し,若干の考察を行った(「道内私大の<体育会系>就職―卒業生調査の結果から―」). さらに,3)身体教育学やスポーツマネジメントといった関連諸分野の専門家と意見交換し,マクロ労働市場の動向もさることながら,大学・企業双方の社会的地位および両者の関係の移り変わりも体育会系就職に影響を及ぼす可能性が示唆された. これを承けて,4)日本が出場した五輪すべての代表選手団名簿を蒐集し,その所属組織(学校/企業/団体)を調べ始めた.代表選手の所属企業の特徴とその移り変わりのパターンが,体育会系就職の変遷を記述する作業に大いに役立つと予想されるからである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した関連諸分野における諸理論の整理および統計情報の整理に関しては,7割程度の進度であるが,その分,研究の方法論的な検討および各分野の専門家との意見交換を通じて,極めて有用な分析視点を養うことができた.すなわち,体育会系就職の様相は特にバブル崩壊前後で変化しているとの仮説を得たのである.高度経済成長,オイルショック,バブルとさまざまな景気変動とそれに伴う労働市場の興廃を経験してきたわが国において,やはり体育会系就職を巡る社会的了解はそれらに応じて変遷してきていると予想される. ただし,合わせて考慮すべきと考えられたことは,近年の少子化,大学設置基準の緩和による大学への進学者の飽和,それに伴う大学教育環境の変化が大卒労働市場に与えた影響である.大学が置かれた社会的文脈が変わったために,そこに進学する学生の質も教職員の質も変わったと考えられる.その影響は無視できないものと推察されるため,今後の検討課題として浮上したと言える. しかし,戦後の体育会系就職を相対化するためには,戦前の様相を把握する作業を完遂できたことは極めて大きな意義があった.本年度の主な目標は理論仮説の生成であったため,戦後の変遷の起点(=戦前)を整理できたことは,今後の研究に大いに貢献するものと考えられる.以上より,全体としてはまずまずの進み具合であったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
24年度は,今年度生成した仮説を頼りに,<体育会系>関連記事のリスト化と言説分析を行う.労働市場の動向ならびに望ましい人材像に関する変遷,学生側の就職戦術本や指南書の類における対応と変化もチェックする.その上で,全国紙5社(朝日,読売,毎日,産経,日経)と日経BPの記事検索システムを利用し,「体育会系」とそれに準ずるキーワード(「運動家」,「スポーツマン」)を含む記事をリスト化する.データの掌握とともに言説分析を開始する.成果は学会発表と論文にまとめて公表する. 25年度には,入職年代別インタビュー調査を行う.入職年代別に対象者を絞って<体育会系>人材へのインタビュー調査を行う.目標は20名程度.既に某大手商社マン(90年代後半入社,30代・男性,経理)へのプレ調査を実施しており,雪だるま式に適者を紹介してもらえるよう協力を取り付けている.得られた成果は学会発表等で公表する. 26年度には,それまでに得られた仮説を統計的に実証すべく,大卒者を対象としたアンケート調査を実施する.目標回収数は600.既に得られている321の個票と合わせて分析できるよう,項目の選定には十分注意する.回収率を上げるため,現在までの研究で明らかになった部分をA4:1枚にまとめて封筒にいれたり,大学OB・OG会報にその趣旨や意義の掲載を依頼するなどし,周知を図る.成果は速報版としてOB・OG会報に載せるほか,学会発表,大学紀要等に掲載して公表する.また後期には,得られた知見を統合・分析し,協力を得た専門研究者及びインタビューイーにフィードバックするための会合を開く.その際,分析結果が当事者の感覚から妥当かどうか,グループ・ディスカッションを行い,必要と認められた場合は再度個別インタビューを実施するなどして,データへの洞察を洗練する.成果は学会発表と論文にまとめて公表する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては,まず,資料調査のために大型の画面を有するデスクトップPCを準備する(200,000円).いくつものウィンドウを開いて行うデータ整理・分析作業の効率を高めるためである.その他は資料整理のための人件費(50,000円),資料および定性的データ分析ソフトを購入するための物品費(160,000円),調査や学会発表のための旅費(90,000円)を支出する予定である.
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