スポーツにおける視覚の重要性が指摘されており、「見る」や「眼」という観点からの効率的なトレーニング方法を研究することは、野球等の打撃を行う種目において重要な課題と言える。本研究では、打席においてボールを見るというトレーニング方法が打撃能力や動体視力に及ぼす効果を明らかにすることを目的とし、最終年度では時速100kmのカーブを用いたトレーニング実験を実施した。 今年度の被験者は16名であった。被験者を時速100kmのカーブを週3回4週間、打撃練習する群と、見るトレーニングを行う群に分けた。トレーニングの前後には、打撃能力の評価を行うテストと、各種視覚機能測定を実施した。打撃能力テストは、直球:時速100km・115km、カーブ:時速100kmであった。加えて、動体視力、距離感を測定する深視力、眼で見た視標に対して素早く正確に反応できる能力である眼と手の協応動作等の測定を実施した。実験は比較的危険性の低い軟式野球ボールを使用して行い、安全に効率的に研究が行えるようピッチングマシーンを活用して実施した。 データ分析の結果、どちらの群においても打撃能力は向上する傾向にはあった。特に、実際に打撃を行う群は、時速100kmのカーブボール条件において、有意(p<0.05)に打撃能力が向上していた。また、見るトレーニングを行った群は、時速100kmの直球条件において、有意(p<0.05)に打撃能力が向上していた。 これまでも、時速100kmの直球を用いた打撃練習、または見るトレーニングを行う条件を設定した実験、時速115kmの直球を用いた打撃練習、または見るトレーニングを行う条件を設定した実験を行った。全体として打撃能力は向上する傾向にはあったが、打撃練習を行う群は打撃能力に対して、見るトレーニングでは視覚機能に対して、比較的効果が得られる傾向にあったと思われた。
|