今日,体幹部は水泳のみならず色々な運動種目においてパフォーマンスとの関係が注目されており,特に水泳においては非常に多くの選手が体幹トレーニングに取り組んでいる.一方で,初心者指導などの競技以外での水泳指導の現場では,手足の動きについての指導にとどまっており,体幹部への意識などは皆無なのが現状である,申請者は,クロール泳時の体幹部の活動を定量することで,水泳における体幹部の重要性を明らかにし,その結果を初心者指導から選手強化まで幅広く適用できると考えた.この点が本研究の意義である. 本研究では,クロール泳において,体幹安定化の指標とされている腹腔内圧を定量し,様々なレベルの泳者を対象として,さらに泳パフォーマンス関連指標との関係を検討した.主な課題として,以下に示す三つを挙げて検討した.課題1:クロール泳における腹腔内圧の変化要因を検討するために,競泳選手を対象として最大下泳時の泳速に対する腹腔内圧およびストローク指標の検討,課題2:クロール泳における腹腔内圧と泳パフォーマンスの関係を検討するために,競泳選手を対象として最大努力泳時の泳速度と腹腔内圧およびストローク指標との関係の検討,そして課題3:クロール泳における腹腔内圧と泳パフォーマンスとの関係を検討するために,競泳選手と一般学生の最大努力によるクロール泳時の腹腔内圧の比較であった, 以上の課題に取り組んだ結果,クロール泳時の腹腔内圧は,個人内でみると泳速度と共に高まるものの,個人間で見ると最大泳速度ともストローク指標とも関係が見られないことが明らかとなった.加えて,習熟度別の比較より選手であっても競技経験のない一般学生であっても,最大努力泳時の腹腔内圧は,絶対値で見ても,本人の最大随意腹腔内圧からの相対値で見ても,有意な差は認められなかった.それゆえ,水泳のパフォーマンスは,泳技術による影響が非常に大きいことが示唆された.
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