研究課題/領域番号 |
23700775
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西島 壮 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 助教 (10431678)
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キーワード | マトリックスメタロプロテイナーゼ / MMP / 運動 / 自発走運動 / 神経新生 / 海馬 |
研究概要 |
本研究は、運動によって海馬の神経機能が向上する背景にマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)が関与すると仮説を立て、検証することを目的とする。 海馬の背側領域は空間学習・記憶に、腹側領域は情動反応やストレス反応の調節に関与していることが明らかにされて以降、刺激が海馬の機能に及ぼす影響は背側領域と腹側領域とを分けて検討することの重要性が指摘されている。これまで、運動が海馬における神経新生を増加させることは多くの研究で明らかにされているものの、その影響を背側および腹側領域とで分け、詳細に検討した報告は少ない。今後、運動による海馬神経新生促進にMMP-9がどのように関与するかを検討するためにも、本年度は運動による海馬神経新生促進効果を、背側・腹側領域で分けて検討した。 実験ではマウスに4週間の自発走運動を行わせた。海馬神経新生は、幼若神経細胞マーカーであるDoublecortin(DCX)を免疫組織化学的に染色し、背側と腹側領域別にDCX陽性細胞数を定量した。その結果、非運動群と比較し、運動群の背側海馬ではDCX陽性細胞が有意に増加し、腹側海馬で増加傾向が見られた。また、長期的な神経活性マーカーであるFosB/ΔFosB発現も、背側および腹側の両領域で有意に増加し、さらにFosB/ΔFosB発現とDCX陽性細胞数には強い正の相関関係が認められた。以上の結果は、運動が海馬の背側および腹側のどちらの領域の神経活動も高め、神経新生を促進している可能性を示唆している。 MMP-9は、神経活動の活性化にともない非活性型のpro-MMP-9から活性型MMP-9となる。そこで今後は、MMP-9阻害薬投与により運動による神経新生促進が抑制されるか否かを、海馬の背側および腹側の両領域で検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、海馬神経新生および長期的な神経活動を海馬の領域別に検討するための新たな解析方法を確立することができた(論文投稿中)。この方法は、今後、MMP-9の作用を検証する際に、極めて有効な方法となることが期待できるため、研究を進展させることができたと考えている。 一方、MMP-9阻害方法については、当初予定していた脳室内投与法では期待通りの効果が得られていない。したがって、今年度に予定していたMMP-9阻害実験がまだ開始できていない状況である。したがって、現在までの達成度は「やや遅れている」と評価した。 今後は、MMP-9の希釈条件を再検討することに加え、腹腔内投与など他の投与方法や、さらにはMMP-9抗体を投与することによる免疫中和法など他の阻害方法についても、検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前述した「MMP-9阻害方法の再検討」を最優先課題として取り組み、MMP-9阻害薬の腹腔内投与およびMMP-9抗体による免疫中和の有効性を検証する。確認できた阻害方法を用いて、MMP-9阻害が運動による海馬神経新生促進を抑制するか否か、検討する。 あわせて、一過性運動に対するMMP-9以外の細胞外プロテアーゼ(MMP-7、組織プラスイノーゲン活性化因子など)の活性動態について検討することも目的とする。これにより、運動による海馬神経機能向上に対する細胞外プロテアーゼの関与をより広範囲に検討し、研究の停滞を防ぐとともに、最終目標の達成を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は他の民間助成による研究費を獲得することができたため、残金が生じた。その繰越金より、年度当初にマウス用自発運動ケージ(MedAssociates社製、ENV3046、18万円/台)を2台、購入する。50万円以上の研究機器を購入する計画はない。国際学会発表(International Behavioral Neuroscience Society Annual Meeting)に参加予定であり、その旅費(25万円)を支出する。英文校正・論文投稿費として15万円を支出予定である。それ以外は、消耗品費(実験動物、実験試薬などの購入)に充てる。
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