これまでの研究結果において,単回および複数回の温熱負荷は横隔膜萎縮の抑制する効果を持つことを示した.しかしながら,これは人工換気前に処置を施すものであり,事故などで急に人工換気を行う必要が出た場合には応用することが難しい.応用性を高めるためには人工換気後の回復期を対象とした処置を検討することが必要であると思われるが,従来のラットを用いた人工換気実験は侵襲度が高いため回復期を設けることが困難であった.本年度取り組むテーマ3は,侵襲度が低く回復期の設定が容易な改良型人工換気システムの構築を検討するものであり,これまでの研究成果をふまえた発展的な研究内容となる. 気管切開を伴わない人工換気システムとして,研究計画ではマスクを用いた経口式もしくは胸郭に陰圧を負荷する方式を想定していたが,共同研究者や他の研究者との情報交換の結果,本研究では経口の気管挿管を用いる方式を採用することとした.しかしながら,気管内での挿管固定法を検討する必要があった.そこで,気管は切開せず皮膚切開のみを行い,経口挿管したチューブを気管ごと結紮して固定する方法をとることで,安定した換気を確保できることを確認した.なお,人工換気後に縫合することで,皮膚切開の影響は数日でほぼ解消される. 人工換気の侵襲度を下げ,回復期を確保するためには,従来行ってきた頸動静脈へのカテーテル挿入に替わる方法が必要である.そこで,血ガス測定に替わり,質量分析装置を用いて呼気ガス分析を行うこととした.人工換気中に呼気ガスを常にサンプリングできるよう,従来用いていたベンチレータと挿管チューブの結合部を改良した.血ガスと同様,人工換気中の重要なパラメータとなる血圧に関しては,非侵襲型の小動物用血圧測定装置の購入を検討することとした.なお,麻酔の維持には,頸静脈へのカテーテル挿入に替わり脚部の血管に滴下する方式を採用することで解決した.
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