本研究の目的は、高齢者の足関節底屈・背屈動作の動作不全のメカニズムの全容を明らかにし、転倒予防に有効な装具や運動トレーニング法を提示することである。平成24年度の実績として、高齢者においても、足関節底屈時における腓腹筋の筋束変化に対する踵骨移動の増幅作用を有することが明らかとなった。しかし、その程度は若年者よりも小さかった。増幅作用の年齢差は、アキレス腱-踵骨の部位において顕著であり、その要因の一つとしてアキレス腱の湾曲度合いの相違が考えられた。つまり、高齢者のアキレス腱は若年者よりも硬く、屈曲点を境にした湾曲度合いが小さくなるため、踵骨変位量の“てこ効果”が小さくなっていた。このことから、高齢者の足関節底屈動作の可動範囲の狭さは、筋や腱のstiffness(剛性=変形のしづらさ)が小さいだけでなく、アキレス腱湾曲の低さに伴う踵骨変位量の小ささも関与していることが示された。 研究全体の実績として、既存のMRI対応ダイナモメータに光ファイバーのストレインゲージによる力計測システムを新たに構築した。このシステムは、受動的な関節運動中の足部プレートの歪みを実測し、足関節底屈・背屈動作時のプレートに発生した力を計測することが可能となった。足関節の底屈動作時の筋腱骨の動態については、前述の通りである。一方、足関節背屈動作については、力の計測精度が低く、実験開始に至らなかった。これはダイナモメータの構造上の問題として、今後、大幅な改良をする必要がある。
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