研究課題
急性疲労と慢性疲労に共通し、自律神経機能解析により副交感神経活動低下および交感神経活動亢進が観察される。よって、自律神経機能評価は疲労の客観的評価を可能としてきた。しかしながら、疲労による自律神経機能の変調に関する分子神経メカニズムは未だ明らかでない。このメカニズム解明は、自律神経変調に伴う脳神経活動による機能変化だけでなく機能変化に関連する神経伝達物質といった分子動態変化をも明らかにすることを指し、メカニズムに基づく抗疲労・疲労回復法の研究推進を導き健康社会実現の一助となることが期待される。よって、本研究は、疲労による自律神経機能変調の分子神経メカニズム解明を目的とした。本研究では、慢性疲労の予防の観点に立ち、健常者の疲労による自律神経機能変調に関する分子神経メカニズム解明に挑戦する。急性精神疲労負荷後の疲労状態において、副交感神活動が低下し、相対的に交感神経活動が亢進することを見出した。また、疲労負荷をかけない安静状態においても、疲労が強いほど副交感神経活動が低下し、相対的に交感神経活動が亢進していることを明らかにした。functional Magnetic Resonance Imaging(fMRI)を用いた脳機能イメージング研究から、精神疲労負荷中において、負荷時間経過に伴い自律神経機能支配に関わる帯状回の賦活度が低下することを見出した。Positron Emission Tomography(PET)を用いた分子イメージング研究から、脳内セロトニン動態との関連が示唆される炎症マーカーである活性型ミクログリアに発現するTranslocator proteinのリガンド、[11C]PK-11195の脳内局所結合度と自律神経活動との関連は認められなかったので、疲労、脳内セロトニン動態および自律神経機能の関連解析のためのPET研究を開始した。
2: おおむね順調に進展している
健常者の疲労による副交感神経活動低下および相対的交感神経活動亢進状態は再現性よくみられた。fMRI研究から、自律神経機能支配に関わる帯状回の賦活低下と疲労との関連性を見出した。PET研究から、脳内炎症については、直接、健常者の疲労との関連性はみられなかったが、当初の予定通り疲労、脳内セロトニン動態および自律神経機能の関連解析のためのPET研究を開始するこができた。よって、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
帯状回を特に関心領域とし、この領域のセロトニン動態変化をPETにより計測する。疲労時の脳内セロトニン動態の定量評価のため、セロトニントランスポーターの結合能の指標となる [11C]N,N-dimethyl-2-(2-amino-4-cyanophenylthio)benzylamine([11C]DASB)を用いる。PET計測と併せて心電図または脈波計測を行い、セロトニン動態変化と副交感神経または交感神経活動レベルの相関解析が可能な実験系を確立し、疲労時における脳内セロトニン動態および自律神経機能の関連解析を行う。随時、必要に応じて追加のfMRI研究を実施する。
大容量PET・fMRIデータ解析・保存のため、大容量外付けハードディスクの購入費を計上する。PET関連試薬等の消耗品費を計上する。健常被験者に対する研究協力謝礼金費を計上する。研究成果を国内外の学会で発表するための旅費と学会参加費を計上する。次年度に使用予定の研究費(繰越を行った研究費)は研究成果発表のため、特に、国際誌における論文発表のための論文校閲費と別刷費として計上する。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件)
Behavioral and Brain Functions
巻: 7 ページ: -
doi:10.1186/1744-9081-7-17
doi:10.1186/1744-9081-7-46
消化器心身医学
巻: 18 ページ: 32-38