研究課題/領域番号 |
23700827
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川田 茂雄 東京大学, 総合文化研究科, 特任講師 (20376601)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 光老化 / 紫外線 / 皮膚 / 血管増殖 / 組織酸素分圧 |
研究概要 |
皮膚への紫外線照射(UVB)により皮膚にシワが形成される。UVBに暴露された皮膚直下では血管増殖が生じ、この血管増殖がシワ形成の要因の1つであることが分かっている。今年度はこのUVB照射による血管増殖を抑制することによりシワ形成を抑制できるかどうかを検討した。そこで、本研究でもマウスを用いてUVB照射による血管増殖の実験系を確立し、UVB照射によりシワ形成と皮膚血管増殖が起きることを確認した。このUVB照射による血管増殖では、UVB暴露時間(総UVB照射量)の違いにより、皮膚組織で起こる反応も異なると予想される。初年度は、UVB暴露が短期の場合と長期の場合で皮膚組織に起こる反応にどのような違いがあるかを分子レベルで比較した。その結果、短期UVB照射では血管増殖に関与するHypoxia-Inducible Factor (HIF)-1αの発現増加が認められ、長期ではHIF-1αだけではなく、matrix metalloproteinase (MMP)-2とMMP-9の活性増加も認められた。HIF-1αは、常酸素分圧環境下では分解されやすく、低酸素分圧環境下では比較的安定的に存在するという性質がある。そこで、マウスを高酸素環境下に暴露し、組織内酸素分圧を上昇させると、短期のUVB照射によるHIF-1αの増加を減弱し、血管増殖も減弱させることにより皮膚のシワ形成を抑制するという結果を得た。しかしながら、長期のUVB照射ではHIF-1αの増加は減弱させたものの、MMP-2とMMP-9の活性増加には影響を与えず血管増殖も抑制しないことから皮膚のシワ形成も抑制できないことが分かった。このことは、UVB照射による血管増殖を抑制させるためには少なくともHIF-1αの発現増加とMMP-2、MMP-9の活性増加の両方を抑制する必要があることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、皮膚へのUVB照射によるHIF-1α発現増加を抑制することによる血管増殖抑制という作業仮説は、本年度の実験により確認できた。また、組織酸素分圧を直接測定することにより、短期のUVB照射ではどの程度の組織酸素分圧であれば、UVB照射による血管増殖を減弱させることができるかという量的指標も示すことができた。これらの結果を得ることができたのは当初予定していた実験計画が順調に進展した成果である。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度は、当初の予定通り高酸素環境のマイナスの要素についても検討する予定である。本研究の成果はそのままヒトへも応用可能であり、今後ヒトへの応用が進むと考えられる。そのため、特に細胞への酸化障害の検討は必須である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は実験系の確立のために充てていた研究費が、予定以上に順調に実験系の確立が行えたため若干の繰越金が出た。しかしながら、最終年度も新たな実験系の確立が必要なため、その予備実験のための費用に回す予定である。最終年度も引き続き実験を行うため、消耗品費は初年度と同程度であるが、研究成果の外部発表のための学会参加旅費や論文発表のための費用が初年度より多くなる予定である。
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