本申請課題では、組織酸素分圧の増加により抗老化作用を引き起こせるかについて検討した。対象とした組織は皮膚である。 皮膚の老化は紫外線暴露により生じるが、皮膚へ紫外線を照射すると皮膚直下の血管増殖が引き起こされる。この血管増殖が皮膚老化に関与しているため、申請者は皮膚組織の酸素分圧を増加させることにより、この紫外線暴露による血管増殖を抑制させ皮膚老化も抑制できるかを検討した。 実験は、実験動物のマウスを対象とし、皮膚組織酸素分圧を増加させるためマウスを90%酸素環境下に置いた。紫外線照射は紫外線ランプにより行った。初年度では、皮膚老化初期の段階では高酸素暴露によって紫外線照射による血管増殖が抑制でき、また、皮膚老化の指標であるシワ形成も抑制できることを見出した。研究最終年度では、より長期の紫外線照射を行い検討したところ、長期の紫外線照射では、コラーゲン分解酵素の活性が極めて高まり、このような状況下では、例え皮膚組織酸素分圧を高め、血管増殖に関与する他の因子の発現上昇を抑制しても、血管増殖や皮膚のシワ形成も抑制できないことが分かった。 以上のことから、皮膚組織酸素分圧の増加は、紫外線暴露による皮膚老化の初期段階の反応を遅らせることができること、しかし、コラーゲン分解酵素の活性が高まってくるほどの長期の紫外線暴露では皮膚組織酸素分圧増加による皮膚抗老化効果が見られないことが明らかとなった。 本研究では高酸素暴露は1絶対気圧環境下で行ったが、気圧を高めるとより組織酸素分圧を高めることが可能である。今後は、気圧も高めることにより、組織酸素分圧をさらに高めた場合、組織酸素分圧上昇依存性で抗老化作用も高まるのかを検討する必要があると考える。
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