研究課題/領域番号 |
23700830
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 英寿 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座助教 (10547532)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 尿毒症物質 / トリプトファン代謝物 / インドキシル硫酸 / 慢性腎不全 / 細胞老化 / 繊維化 / 炎症反応 |
研究概要 |
近年、日常生活を送る上で一般的に摂取している食品タンパク質から、腎不全の進行を促進する物質が体内で生成されている事が明らかとなっている。この物質の1つが、食品タンパク質由来トリプトファン代謝物インドキシル硫酸である。インドキシル硫酸は、腎臓が正常に機能している際は、尿として体外へ排泄されるが、腎機能に障害が起こると血中に蓄積され、さらなる腎機能の低下を導く事が知られている。しかし、どのようなメカニズムでインドキシル硫酸が腎機能の低下を導くのか、その詳細は明らかになっていないのが現状である。そこで本申請では、そのメカニズムを解析する事を目的とした。現在まで本研究において、以下のような結果を得ている。(1)腎不全時に発現増加する炎症性分子の1つであるMCP-1について、インドキシル硫酸は、活性酸素、NF-kappaB、p53、ERK、JNKを介して、その発現量を上昇させていた。(2)インドキシル硫酸は、Stat3の活性化を介して、細胞老化、炎症反応、線維化を導いた。(3)これまでに、インドキシル硫酸がNF-kappaBやp53を介してTGF-beta1の発現を増加させる事を報告しているが、インドキシル硫酸とTGF-beta1シグナルのクロストークについては未解明である。インドキシル硫酸は、ERKを活性化する事でSmad3の発現を増加させ、TGF-beta1シグナルを増強させる事を確認した。 以上のように、インドキシル硫酸が腎不全の進行を導くメカニズムについて、その一端を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近位尿細管細胞において、どのような分子がインドキシル硫酸によって活性化されるのか、その報告は非常に少ないのが現状である。しかし、申請者によって現在までに、インドキシル硫酸は培養近位尿細管細胞において、少なくても、MAPキナーゼファミリーであるERK、p38、JNKを活性化する事を見出した。また、インドキシル硫酸が活性化する転写因子として、NF-kappaB、p53、Stat3の3種が少なくても近位尿細管で活性化される事を明らかにした。加えて、これら分子の活性化が、インドキシル硫酸によって導かれる細胞老化、炎症反応、線維化に関与している事も確かめている。この他にも、インドキシル硫酸はSmad3の発現増加を導く事で、TGFbeta1シグナルを増強している事を確認した。以上の結果は、個体の腎臓を用いた解析においても反映されていた。本申請の目的は、インドキシル硫酸の作用点を同定し、その分子が近位尿細管細胞や個体の腎臓にどのような影響を与えいるのか明らかにする事を目的としている。したがって、現在までに得られている結果は、インドキシル硫酸の標的分子と慢性腎不全の進行との関係性を明らかにする上で非常に重要であると考えられる。よって、現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
培養近位尿細管細胞において、インドキシル硫酸の標的分子を同定し、その分子に対する薬剤処理、またはsiRNAを用いたノックダウンを行う事により、現在までに明らかにしてきた近位尿細管細胞の細胞老化、炎症反応、線維化にどのような影響を与えるのかを確かめる。影響を与えるのであれば、現在までに確認されたインドキシル硫酸によって活性化される分子との関係性について検証を行っていく。 個体においては、慢性腎不全において血中インドキシル硫酸濃度が上昇する事から、ノックアウトマウスを用いて慢性腎不全をモデルを作製する事を考えていたが、マウスの慢性腎不全モデルを作製するのは困難である事から、現在、慢性腎不全モデルラットに薬剤投与する実験系を用いて解析を行っていく事を考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は、当初、申請した通りである。 分子生物学試薬(プラスミド精製キット、RNA 抽出試薬、real-time PCR 法試薬関連、制限酵素、DNA 修飾酵素、プロモーター活性測定試薬等)、細胞生物学試薬(細胞培養関連試薬、遺伝子導入試薬、阻害剤、siRNA 等)、タンパク解析試薬(タンパク抽出・精製関連試薬、抗体、ウェスタンブロット法関連試薬、免疫組織染色法関連試薬等)、プラスチック消耗品(チップ、チューブ、細胞培養ディッシュ等)を購入予定である。 また、学会発表における旅費及び論文の校正料や投稿料の計上も行っている。
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