研究課題
これまでの申請者が行ってきた研究により、マウスに一過性走運動を施すと、その24時間後に筋インスリン感受性亢進が認められ、また、その現象には骨格筋内におけるマクロファージ数の増加が関わっていることを示してきた。今年度の研究目的は、増加したマクロファージがどのように筋インスリン感受性を制御しているのか、また、運動後にマクロファージが集積するメカニズムの探索であった。(1)運動による筋インスリン感受性亢進に関わるシグナル伝達経路の探索 一過的走運動後に認められる筋インスリン感受性亢進はインスリンシグナルの増強によるものではないため、阻害剤を用いて、どの経路が運動による筋インスリン感受性に関与するかを検討したところ、Total PKC の阻害剤であるGo6983、並びにconventional PKCの阻害剤であるGo6976により、運動による筋インスリン感受性亢進がキャンセルされた。このことから、PKC、特にconventional PKCの関与が示唆された。(2)運動による筋インスリン感受性亢進に関わるサイトカインの探索 運動後の骨格筋にマクロファージの集積が認められることから、運動後の骨格筋はケモカイン、サイトカインを発現・分泌することが考えられる。そこで、運動前、運動終了0,1,3,24時間後の骨格筋内におけるサイトカイン・ケモカイン量を網羅的に解析した。その結果、ケモカインとして、MCP-1,KCが運動終了後に大幅に増加していた。また、運動終了3~24時間後に様々なサイトカインの増加、特にコロニー刺激因子群の増加が顕著であった。このことから、運動後の筋はマクロファージ、好中球をケモカインにより誘引し、サイトカイン・コロニー刺激因子等でこれらの性質を変化させていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
計画段階で、運動後の骨格筋はケモカイン・サイトカインを分泌し、免疫細胞を誘引・活性化させ、その免疫細胞により骨格筋内のシグナル経路が活性化されることでインスリン感受性が亢進すると仮説し、網羅解析を含めた実験を進めた結果、典型的なケモカインの同定ができ、運動により増加するサイトカインを明らかにすることができた。また、インスリン感受性亢進に関わるシグナル経路を仮説し、阻害剤を用いた実験から、いくつかの候補となる経路を見出すことができた。これらの結果は実験前に立てた仮説の大部分が、正しかったため得られたものであり、おおむね順調に進捗してるといえる。
今年度の研究により筋インスリン感受性亢進に関与が示唆されたサイトカイン・ケモカイン・シグナル伝達経路に関して、中和抗体や、遺伝子改変を用いて、より詳細にその関与を明らかにしていく。
昨年度と同様に研究に必要なものを吟味し購入する。
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J Diabetes Invest.
巻: 2 ページ: 310-317
10.1111/j.2040-1124.2010.00091.x