本研究の目的は、体性感覚情報(触覚・固有感覚)の歩行バランスへの貢献について基礎的検討を行った上で、「人工的に体性感覚の感度を高めることによる歩行バランスの安定」という点に着目したバランス補助器具を検討することであった。 まず基礎的検討では、若年者を対象とし、手指先から身体動揺に関する体性感覚情報を入力した際の、歩行動作の変調を検討した。実験では被験者は16mの歩行を行った。その際、歩行路に沿って作成した手すりに手指先で微小な力(2N)で触れながら歩行を実施した。その結果、体性感覚情報の入力により、左右方向の腰部加速度の減少、並びに頭頂部の左右方向の動揺の減少が認められた。この効果は開眼条件、閉眼条件どちらにおいても認められた。さらに詳細な解析により、身体動揺情報が指先体性感覚において先行して入力され、フィードバックされていることが示唆された。高齢者においても体性感覚の入力によって頭頂部の左右方向の動揺が減少した。以上の結果は、体性感覚情報に着目した、歩行バランス向上器具の開発を期待させるものである。 そこで最終年度では、体性感覚にノイズ刺激を印加し、確率共振の効果から体性感覚を向上させ、歩行バランスを高めることを目的とした補助器具の検討を行った。指先にノイズ様の振動が入力される杖を試作した。試作した杖について、ノイズ印加時の歩行動作の変調から、効果検証を行った。今後さらに、刺激の周波数、強度、種類を変数とした体系的な検討を行う必要がある。
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