研究課題/領域番号 |
23700878
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪市立工業研究所 |
研究代表者 |
大江 猛 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, その他部局等, 研究員 (10416315)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 繊維加工 / 糖 / バイオマス / メイラード反応 / 省エネルギー |
研究概要 |
本年度では、食品の分野で利用されているメイラード反応による着色現象を応用して、綿、麻、羊毛、絹およびナイロンなどの汎用繊維の着色実験を行った。初めに、セルロース繊維である綿および麻とアミノ酸であるグリシンおよびアラニンとの反応について検討を行ったが、高温条件下においても着色反応は進行しなかった。おそらく、メイラード反応では糖の水酸基の脱水反応や転移反応が深く関与しており、高分子の還元糖であるセルロース繊維では十分に反応が進行しなかったと考えられる。次に、ポリアミド繊維である羊毛、絹およびナイロン繊維と還元糖であるキシロースおよびグルコースとの反応についても検討を行った。先程のセルロース繊維とは異なり、これらポリアミド繊維と還元糖の間でメイラード反応が進行し、繊維を着色することに成功した。興味深いことに、高分子末端にしかアミノ基を持たないナイロン繊維でも十分な着色が認められた。さらに、最も着色効果の高かった羊毛繊維を用いて各種反応条件(還元糖の種類、糖濃度、反応温度)について検討を行った。種々の糖類を用いて反応を調べたところ、メチルグルコシドなどの非還元糖では反応が進まず、分子量の小さな還元糖ほど、繊維を効果的に着色することができた。特に、単糖類の中でもペンタオースであるキシロースおよびアラビノースが最も短時間で羊毛繊維を着色することができた。さらに、糖濃度および反応温度についても検討を行ったところ、高温条件での高濃度のキシロース水溶液中で羊毛を着色したところ、茶褐色の濃色に着色することができた。しかしながら、今回の反応条件の検討では、従来の食品で見られる着色(黄色→オレンジ色→茶色→褐色)と同様の色相の変化しか認めらなかった。次年度は、反応時間の短縮と併せて色相の制御方法についても検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、食品の分野で利用されているメイラード反応による着色現象を応用して、各種汎用繊維の着色実験を行った。綿や麻などのセルロース繊維とアミノ酸との反応による繊維の着色効果は認められなかったものの、羊毛、絹、ナイロン繊維と還元糖との反応を応用して、繊維を着色することができた。特に、反応性の高い還元糖であるキシロースを用いた場合、羊毛繊維を黄色から茶褐色まで着色することに成功した。繊維工業への実用化には、反応時間の短縮や色相の制御(多様化)などの問題点を残しているが、従来の色素を用いた着色方法とは異なる新しい着色技術の開発に成功しており、本年度の研究目標は概ね達成できた。今年度に得られた成果については、すでに特許出願を済ましている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、メイラード反応で着色された繊維材料の染色堅ろう度(酸、アルカリ、光、摩擦、汗、熱水などに対する退色・色移り試験)や各種繊維物性(機械強度、吸湿性、吸水・撥水性、抗菌性試験など)の評価を行い、得られた色素と従来の染料との比較検討や反応後の繊維物性への影響について調べる。さらに、本年度に引き続き、反応時間の短縮や、メイラード反応で着色できなかった綿などのセルロース繊維への応用についても併せて検討する。具体的には、メイラード反応における反応場の影響(溶液のpHの影響、界面活性剤、有機溶媒、無機塩などの添加物の効果)や染色機を用いた高温高圧条件下での着色反応について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に得られた繊維材料の色相の変化を詳細に調べる目的で、色彩管理システムの導入を行う。また、本年度では、特許出願およびその準備のため、学会発表を十分に行っておらず、次年度では、より積極的に学会発表および論文投稿を行うために、研究費の一部を利用する。
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