前年度の研究において、繊維中にアミノ基を持つポリアミド繊維と還元糖との反応によって繊維を着色させることに成功した。しかしながら、反応性の高い還元糖であるキシロースを用いた反応系においても、濃色に着色する場合、かなり反応時間が必要であることも明らかとなった。はじめに、メイラード反応で着色した羊毛繊維の染色堅ろう度および繊維物性について評価した。酸、アルカリ、汗、熱水、摩擦に対しての染色堅ろう度を調べたところ、繊維の退色や白布への色移りは認められなかった。これは、通常の染色とは異なり、メイラード反応によって繊維自身が化学的に発色したことが原因と考えられる。次に、羊毛繊維の親水性に関係する物性(吸湿性、吸水性、撥水性、帯電性)について調べたところ、糖質を反応させた合成繊維とは異なり、帯電性と吸水性は改善されたものの、吸湿性では若干の低下が認められ、撥水性に関しては殆ど影響が認められなかった。この原因として、羊毛繊維の複雑な多層構造とそれらの部位と糖質との反応性がこれら繊維物性の違いに深く係っていると考えられる。次に、食品でのメラノイジン色素は抗菌活性を示すことが知られており、着色した羊毛繊維に対しても同様の抗菌活性試験を行ったところ、大腸菌に対して強い殺菌性を示す興味深い結果が得られた。最後に、着色反応の反応時間を短縮する目的で反応場の検討を行った。界面活性剤の添加による反応時間の短縮は認められなかったものの、DMSOなどの有機溶媒や塩化カルシウムなどの無機塩を添加することによって反応速度は大きく改善された。特に、反応系のpHの影響は大きく、炭酸水素ナトリウムを添加したアルカリ条件で反応を行うことによって、最大6倍程度の反応速度の改善が認められた。このように、本年度では、着色物の染色堅ろう度および繊維物性の評価を行い、さらに、前年度の問題点である反応時間の大幅な短縮にも成功した。
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