研究概要 |
発酵食品の風味や機能性には、熟成過程における化合物の変化が不可欠である。そこで本研究では、発酵食品の熟成過程に焦点を当て、生産される微量な化合物を明らかにすることを目的とした。前年度までの研究では、未利用資源であるエビ頭部およびガンガゼを材料に醤油麹を用いた発酵を行うことにより魚醤油の作成に成功した。また、作成した魚醤油の遊離アミノ酸分析の結果から、アミノ酸組成の違い等のそれぞれの魚醤油の特徴を明らかにした。さらに、DPPH (2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl)を用いた評価において、エビ頭部を材料に用いた魚醤油(エビ頭部魚醤油)は高い抗酸化活性を有することを明らかにした。そこで本年度は、エビ頭部魚醤油に含まれる機能性成分として抗酸化物質を単離し、機器分析することでその化学構造を明らかにすることを試みた。まず、精製過程の際にDPPHラジカル捕捉活性試験を行うことで抗酸化物質の単離を進めた。作成した魚醤油 1 L をDIAION HP-20カラムクロマトグラフィーに供し、水で洗浄後、25%メタノール水溶液、50%メタノール水溶液、メタノールで順次溶出した。それぞれの溶出画分を溶媒分画後、Sep-PaK C18カートリッジ、逆相HPLCを用いて精製し、25%メタノール水溶液溶出画分および50%メタノール水溶液溶出画分から、それぞれ1個の化合物を抗酸化物質として単離した。次に、単離した2個の化合物を各種機器分析することにより化学構造を明らかにした。その結果、エビ頭部魚醤油には抗酸化物質として、N-(4-hydroxyphenethyl)acetamideおよびdaidzeinが含まれることが明らかになった。daidzeinは、魚醤油の製造工程で添加した醤油麹から溶出したものであるが、N-(4-hydroxyphenethyl)acetamideは、魚醤油の発酵‐熟成過程においてタンパク質が分解してアミノ酸になった後、脱炭酸やアミド化などの反応を受けて生成する機能性成分の一つであると考えられた。
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