研究課題
世界の言語の中で、日本語の食品テクスチャー用語の多さは突出しているが、それは擬音語・擬態語の豊富さに起因している。擬音語・擬態語による、食感覚の生き生きとした表現は、脳内のどのような活動に起因するのであろうか。本研究は、テクスチャーを表す擬音・擬態語が、脳内でどのように処理、表現されているかについて、脳機能イメージング法を用いて明らかにすることを目的とする。 これらの用語は、言語中枢だけではなく、その意味に深く関連した感覚領域に活動を生じさせる可能性がある。この可能性を検証するためには、テクスチャーの関知に関わる口腔感覚領域がどのように脳磁計(MEG)で同定可能かをあらかじめ検討しておく必要がある。このためには、標準脳座標系において、口腔感覚領域の座標位置が記載されていることが望ましい。ところが、従来のMEG研究では、口腔感覚領域を標準脳座標系で表すという慣習がないため、新たにこれを取得する必要が生じた。口腔内の刺激は現実的ではないため、口唇の電気刺激の脳内表象をMEGによって同定し、標準脳座標系に記載することを試みた。また、脳活動が感覚由来であることを検証するために、局部麻酔による感覚遮断も実施した。 ところが、感覚刺激に伴う筋電ノイズの発生が大きな問題となった。通常の体性感覚刺激と異なり、口腔感覚刺激はMEGのスキャナーとの距離が高いため、信号源推定が困難となった。この問題を解決するために、信号源である口唇部にあらかじめ双極子を仮定し、ノイズを差し引くという新たなノイズキャンセル法を開発した。これは、予期せぬ画期的成果であった。このような技術的開発を経て、被験者10人の結果から、口腔感覚の脳内表象を標準脳座標系上に表現することを実現した。 今後は、この準備を踏まえ、テクスチャー擬音・擬態語に対する大脳神経活動の変化と口腔感覚領域の関係を検討していく。
2: おおむね順調に進展している
従来の達成目標としては、刺激の選定を想定していたが、当初予定していなかった重要検討課題が生じたため、この解決に挑んだ。この結果、従来の予想を上回る成果を得て、論文投稿も進んでいる。総合的に考えると、進行状況は概ね順調と言える。
当初の予定では、テクスチャー関連を無差別に呈示することを考えていた。しかし、MEGの時間分解能を考えると、単語長の差によって、時間的統制が不十分となる可能性がある。この解決策として、(1)ビームフォーマー法による周波数領域の導入、(2)音声刺激語の単語長を厳密な統制、の2種類の解決方が考えられる。実験としては、後者の方が望ましいが、日本語において、擬音語、擬態語として確立されている単語の数は限られているため、語数の確保が困難な可能性もある。そこで、最も確実な方法として、日本語に頻出するABAB型の擬音・擬態語(さくさく、ぱきぱき等)に的を絞り、刺激語の選定を行う。この過程を経て、実際のMEG実験の実施を目指す。
初年度に想定外の課題が生じたため、音声刺激解析システムの構築を初年度から本年度に延期した。そこで、聴覚刺激の音量調節システムを新たに導入するため、平成23年度にオーディオアナライザを購入予定している。また、音声言語刺激作成において、専門の音声言語学者の意見を得て、聴覚刺激のスタジオ録音を依頼するため、謝金が発生する。また、刺激の発話はプロのナレーターに依頼する必要があるため、謝金が発生する。 MEG実験を開始するため、被験者への謝金、実験関連消耗品、取得データの保存メディアや解析に用いるコンピューター関連機材の購入を行う。
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Neuroscience Research
巻: 72 ページ: 163-167
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