研究課題/領域番号 |
23700885
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
檀 はるか 自治医科大学, 医学部, ポストドクター (80589911)
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キーワード | テクスチャー / 脳磁図 / 口腔感覚 / 擬音・擬態語 / 脳機能イメージング |
研究概要 |
日本語は多様なテクスチャー表現を有する。その多様性を支えるのは、擬音語・擬態語の豊富さである。擬音語・擬態語は高い感覚訴求力を有するが、その脳内表象は未解明である。そこで本研究は、テクスチャーを表す擬音・擬態語が、脳内でどのように処理、表現されているか、脳磁計(MEG)を中心とした脳機能イメージング法を用いて解明することを目的とする。 テクスチャー関連擬音・擬態語は、言語中枢のみならず、関連した感覚領域に活動を生じさせることが予想される。テクスチャーを感知するのは口腔であるため、特に口腔感覚領域は重要な役割を担うと考えられる。これまで口腔感覚領域のMEGによる計測は、個人個人の脳構造画像との対応化に基づく解析が主流であったが、グループ解析を行なうためには、標準脳座標系による信号位置の記載が必要である。前年度の準備的計測に引き続き、本年度は、口腔感覚領域の反応が口唇部への電気刺激に由来するものかどうかを確認するために、局所麻酔による遮断実験を行なった。 健常成人10名に対し、下顎片側のオトガイ孔部に局所浸潤麻酔を行い、一時的な下歯槽神経麻痺状態を出現させた。下唇刺激装置を麻酔側、非麻酔側に貼付し、脳磁計システム内で下唇に対する知覚刺激を行い、脳の感覚野での活動の違いについて検討を行った。 非麻酔側では体性感覚誘発磁界が、一次体性感覚野に相当する部位の磁場センサー領域から観察された。非麻酔側における刺激後の応答は刺激対側で、約21 msecの潜時を持つP21m成分が観察された。一方、麻酔側における刺激後の応答は認められず、全ての電流源が消失した。口腔感覚野のMNI標準脳座標は、右(-46±4, -21±6, -41±6)、左(46±7, -17±3, 38±7)であった。このように、口腔感覚刺激の反応源を明確にし、その脳内表象を標準脳座標系上に表現することを実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画においては、聴覚、視覚、口腔感覚関連領域のMEGによる同定が含まれていたが、このうち、聴覚関連領域は刺激に含まれており、また、視覚関連領域は局在が自明であるため、口腔感覚関連領域の詳細な記載が必要となっていた。この課題が達成され、論文発表も実現できたことは大きな成果である。 また、テクスチャー関連用語の選定、刺激作成、MEG実験の準備も比較的順調に進んでいる。当初の計画では、テクスチャー関連用語に関するMEG実験を本年度に終了させる予定であったが、これは現在進行中である。当初、想定されていたよりも大規模な実験となったため、この進行状況は妥当であると考えられる。 このような状況から、総合的に考えると、進行状況は概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、最終年度において、MEGと光トポグラフィの当時計測を想定していたが、テクスチャー関連用語の脳内表象を、MEG単独による時空間的な解析を確実に実行することを優先すべきと考えるに至った。 この背景には、刺激語に用いた単語の統制の問題がある。刺激語の綿密な検討の結果、日本語に頻出するABAB型の擬音・擬態語(さくさく、ぱきぱき等)に的を絞った解析を行なうことが重要であるとの結論に至った。現在、音声刺激語の単語長を厳密に統制し、事象関連の解析を行なう予定であるが、信号の分離が困難であるという予備的結果を得ている。このため、ビームフォーマー法による周波数領域の解析が必要になってくる。この解析は、探索的であるが故に、時間を要する。したがって、最終年度は、MEG信号の解析に専念し、確実な成果を挙げることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度は脳機能計測によって得られた膨大なデータの解析が必要となる。このため、データ処理作業に関する謝金が発生する。 また、MEGデータ処理を並行作業で行なう必要があり、効率化のため、解析用コンピュータの購入を予定している。また、統計処理、信号解析用ソフトウェアに関する費用が生じる。
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