申請者は食品産業廃棄物のカスケード利用の面からも環境に優しく機能性に富むと考えられる発芽玄米を使用した清酒と酒粕に注目し、その二次・三次機能性に対する発現機構の探索を行ってきた。 研究の結果、発芽玄米酒粕を添加することによる食品加工への3つの付加価値を見出した。1つは製パン時に発芽玄米酒粕を10%添加した場合、膨らみが大きく、また柔らかさが持続し、よい焼き色になるという物性の利点を見出した。2つ目は同じくパンの呈味性(「コク味」と「塩味」)が強くなる傾向があることを見出した。3つ目はパンの香気性(イソアミルアルコール等)についてその増強効果を見出した。特に2つ目の呈味性に関して「コク味」と「塩味」は発芽玄米酒粕中の有機酸によるものであることがわかった。酒の味に「コク」をもたらすのは窒素源だと言われており、酒粕もそれと同様の嗜好をもたらすと考えられた。しかし、遊離アミノ酸は「コク」ではなくパンの「甘味」に関与し、一方、呈味核酸については検出されなかった。 申請者らはコクに関係あるとされるカルシウム受容体モデルと、非常に強いコク味を呈するγ-Glu-Val-Glyの結合計算を行うと同時に、単純なカルボン酸105種類の結合を検討した。計算結果から、γ-Glu-Val-Glyは水溶性が高くカルシウム受容体に結合しやすい形になっていることがわかった。その一方でアラキドン酸など「コク」があると言われているものや、申請者の今までの研究で「コク」が増したと考えられる有機酸の一部にも同様に水溶性が高く、カルシウム受容体に結合しやすい形のものが見出され、「コク」を呈する可能性を見出した。
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