豆腐の加工には金属イオンの添加が引き起こす大豆タンパク質の凝集が利用される。本研究では凝集に用いた金属イオンが豆腐内に保持されることに着目し、第一鉄(二価陽)イオンの摂取に役立つ豆腐(鉄分強化豆腐)を開発する。鉄分強化豆腐の開発は様々な鉄欠乏性疾患の改善に役立つ新規栄養機能性食品として期待できる。また、その加工法を通して、金属イオンが豆腐形成において果たす役割について、明確にすることを目的とした。さらに、豆腐様食品に多様性を持たせるために、様々な金属イオンでもめん豆腐ときぬごし豆腐の作り分けを可能にするために、その作り分けに必要な条件を明確にする。 豆腐様鉄強化食品の加工法を確立し、その方法を用いて、もめん豆腐様鉄強化食品を開発した。開発した鉄強化食品は通常の豆腐よりも、非常に多くの鉄を含有していることがわかった。様々なミネラル(第一鉄、第二鉄、マンガン、銅など)を用いて豆腐様食品を開発することが可能であることを示した。また、一部の有機酸塩においても豆腐様食品の凝固剤として使用することができることを明らかにした。これらの方法について特許を申請し公開された。 この加工法を確立する過程において、金属性の凝固剤を用いたもめん豆腐ときぬごし豆腐の作り分けには、凝固剤濃度が重要であることを世界で初めて定量的に明らかに、国際誌に報告した。これまで豆腐加工の現場においては、経験則として知られていたことであるが、このことが明らかになることで、異なる性質をもつ豆乳においても少量で豆腐を加工する条件の探索が可能となった。また、豆腐形成において、大豆タンパク質のカルボキシ基と金属イオンが架橋し、大豆タンパク質同士を結びつけることを実験的に証明し、これまで推測されていた分子機構が正しいことを裏付けた。この結果についても国際誌に報告した。
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