研究課題
平成24年度には、mIRマウスが高脂肪食下で糖尿病を発症する機序として肝臓と脂肪での代謝異常が原因であることを明らかにした。意外なことにmIRマウスはインスリン受容体に機能喪失変異が導入されているにもかかわらず、絶食/再摂食時に、有意な血中インスリン増加が見られ、肝臓と脂肪のインスリンシグナルもAkt1のリン作家シグナルは正常であった。また、このマウスでは糖代謝のみならず、エネルギー代謝にも異常がなかった。一方、高脂肪食下mIRマウス(mIR/HFD)では糖新生酵素であるPEPCKは高脂肪食下野生型マウス(WT/HFD)と同様、絶食、再摂食によるリズムが見られなかったものの、G6Pase発現は再摂食後著明に増加した。そこで、mIR/HFDに、PEPCKの基質であるピルビン酸とG6Paseの基質であるグリセロールを腹腔内に投与し、血糖値の変化を調べた結果、ピルビン酸による血糖の上昇はWT/HFDと同じであったが、グリセロールによる血糖上昇は著明に増加し、グリセロールからの糖新生がmIRマウスでは多いと考えられた。そこで、脂肪での脂肪分解酵素の活性を調べた結果、再摂食でもその活性が抑制されないことが明らかになった。また、脂肪分解酵素・脂肪合成酵素のmRNA発現量を調べた結果、mRNAでは野生型と有意な差は認められなかったことから、高脂肪食負荷mIRマウスでは脂肪分解酵素の活性のみが増加していたことが明らかになった。以上の結果から、脂肪でのグリセロールの供給増加が肝臓でのG6Paseの発現量を増加させ、糖尿病を発症したことが示唆された。本年度は引き続き、肝臓でのインスリンシグナルとグリセロールの供給によるG6Pase発現量変化を詳細に解析するとともに、肝臓でインスリン抵抗性を示す他のマウスモデルを用い、脂肪でのグリセロールの供給増加が糖代謝に与える影響を検討する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
インスリン受容体変異マウスを用いた実験で当初インスリン標的臓器である肝臓・脂肪・筋肉でのインスリンシグナルが障害されていると予測した。ところが普通食飼育下mIRマウスではインスリンシグナルの障害はほとんど見られず、むしろ代償的に膵臓からのインスリン分泌が増加し、肝臓と脂肪での脂肪合成などの経路は亢進していた。mIRマウスは高脂肪食飼育下のみ糖尿病を発症するマウスモデルであるが、シグナル全体の障害よりはむしろ脂肪代謝が選択的に障害され、糖尿病を発症することが判明した。現在は、mIR/HFDの糖尿病を治療する治療標的分子の絞り込みと、介入治療の実験を進めている。
来年度はまず、肝臓でインスリンシグナルとG6Pase発現量がグリセロールによりどのように調節されているのかを詳細に解析する。また、グリセロールの供給源である脂肪での脂肪分解酵素の活性抑制による糖尿病治療の可能性も分子レベル、個体レベルで検討する。
平成25年度の研究費は上記の研究を推進するため、試薬等の消耗品購入にあてる予定である。
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J Diabetes Invest
巻: 3 ページ: 156-163
10.1111/j.2040-1124.2011.00163.x,2012