研究課題/領域番号 |
23700903
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
永井 亜矢子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 助教 (90551309)
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キーワード | 小児白血病 / 化学療法 / 味覚変化 |
研究概要 |
化学療法中の小児白血病患者で生じる味覚変化の発生頻度や程度を明らかにするため、味覚検査を実施した。小児用味覚検査法として公的に認められているものは見当たらないため、成人を対象に臨床で広く使用されている濾紙ディスク法(テーストディスク@(株)三和化学)を用いた。また、健常な小中学生69名(男性33名、女性36名、8~15歳)の味覚検査を実施し、患児の味覚閾値と比較した。小児白血病は小児がんにおいては高頻度であるもののがん全体の1%未満にすぎず、さらに味覚検査は7歳以上でなければ回答が難しいため、対象となり得る症例そのものが少ない。また、入院治療中は保護者や患者本人における治療、検査や疾患に対する不安感が大きく、調査協力を求めるのは非常に困難である。そのため、前年度に引き続き、外来化学療法中あるいは化学療法終了後の小児白血病患者を対象とし、味覚閾値や味覚変化の自覚症状の有無等を調査した。(計39名:男性20名、女性19名、7~18歳)小児白血病患者と健常児の味覚閾値を比較したところ有意な差はみられなかった。受けた治療が化学療法のみの群と化学療法に加えて放射線療法あるいは造血幹細胞移植、またはその両方を受けた群とで味覚低下者数を比較したところ、有意な差はなかった。また、外来治療中のみならず、治療終了後数ヶ月経過した例においても味覚低下が見られ、さらに味覚変化の自覚症状のない症例においても味覚低下は認められた。本研究では患児の自発的な報告によって判明することが多い味覚低下を数値として示すことができた。低年齢での味覚低下の長期継続は濃い味のものを好む食習慣にもつながり、将来高血圧症等の生活習慣病発症の助長ともなり得るため、外来治療中やその後の経過観察中における味覚低下の発生状況を把握することは重要であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では化学療法中の小児白血病患者で生じる味覚変化の発生頻度や程度を明らかにするため、味覚検査を実施する。しかし、小児用味覚検査法として手技が統一しているものはないため、成人で使用されている濾紙ディスク法を用いて、まず、健常児での基準作成を行うこととした。平成23年度に健常な小中学生40名を対象に味覚閾値を把握したが、例数を増やすために、平成24年度においても健常な小学生29名を対象に味覚検査を実施し、計画通りに進んでいる。 次に化学療法中の小児白血病患者における味覚変化については、当初入院患者での調査を進めていたが、数例実施した時点で対象集めに困難が生じ、外来患者での調査に変更したため、平成23年度は計画がやや遅れていた。平成24年度は外来治療中及び経過観察中の患者を対象に例数を増やし、おおむね順調に進展している。平成23年度に遅れが出た分、平成25年度のデータ収集期間を当初の予定より延長し、今後も対象者集めに努める。 また、遺伝的に決定されるPROP(苦味物質)感受性の有無は、PROP以外の味質の感度にも影響するとの報告があるが定かではないため、参考データとして、平成24年度に女子大生におけるPROP感受性の有無による味覚閾値について調べたところ、有意な差は認められなかった。このことより、小児白血病患者においてPROP感受性の有無は検討しなくともよいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
小児白血病患者における味覚変化について、当初入院患者での研究を進めていたが、対象集めに困難が生じたため、外来患者へと変更している。今後も外来治療中及び経過観察中の患者を対象とし、例数を増やす。本研究は小児白血病患者を対象としており、母集団そのものが少ない。そのため、本研究を遂行する上での課題は対象集めである。現在のところ順調に対象を集められているが、必要であれば協力施設をさらに増やし、協力者を募ることとする。外来治療中の患児において味覚低下が認められた者は、定期的に味覚閾値を測定し、その変動をみることで味覚低下の持続期間を確認する。主な調査項目のうち、血液生化学検査値、身体計測値、副作用(嘔吐、下痢、口内炎、食欲不振、味覚変化等)の有無はカルテや記録等から拾う。さらに、味覚検査、唾液検査、食習慣に関するアンケートを実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き味覚検査を実施するため、検査用試薬を購入する。また、味覚低下が認められた者において、化学療法中に体内で生じる大量の活性酸素により悪化する有害事象に対し、抗酸化剤の使用が有用だと言われていることから、唾液中の過酸化物質を測定する。さらに味覚へ影響を与えると考えられる血清微量元素やホルモンを測定する。味覚検査は痛みを伴わず、対象者に侵襲は与えないが、検査前の飲食制限といった負担がある。そのため、場合によっては協力者への謝金を検討している。患児の基礎データはカルテから拾うことになり、個人情報の保護という観点から、協力施設に直接足を運びデータを収集する。膨大な情報から必要なデータのみを拾うため、申請者と共に調査補助員が作業にあたる。味覚検査は各施設にて実施するため、調査旅費を必要とする。また、最終年度ということもあり、国内外で成果発表するための旅費や報告書の印刷費、論文別刷費を必要とする。 近年、4基本味(甘味、塩味、酸味、苦味)が正常であっても、うま味の味覚感受のみが低下し、それが原因で食欲不振となり栄養状態悪化につながるとの報告があるが、うま味の味覚検査手技は確立途中でありデータが不足している。参考データとしてうま味の味覚閾値についても調べる。 過酸化物質、血清微量元素、ホルモン分析費:365千円、味覚検査用試薬:100千円、論文別刷り:10千円 研究協力謝金:30千円、調査補助謝金:0.8千円×125時間=100千円、調査旅費(国内):185千円、 成果発表旅費(国内):50千円、成果発表旅費(国外):360千円、印刷費:100千円
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