香辛料は、食品の嗜好性や保存性を向上させるだけでなく、薬理・生理作用を有することが古くから知られている。しかしながら、これらの作用は伝承や経験によるものが多く、分子レベルでの有効性の評価は必ずしも十分ではない。そこで本研究は、誘導型シクロオキシゲナーゼ(COX-2)の発現抑制と、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)の活性化という新しい指標を用いて、香辛料の機能性を細胞レベル、個体レベルで評価し、生活習慣病予防の観点から分子作用機構を解明することを目的とした。 計画1年目の前年度は、培養細胞を用いた評価により、COX-2発現抑制とPPAR活性化の両効果をもつ香辛料精油としてシナモンバーグ油を見出し、その効果は主成分であるシンナムアルデヒドに起因していること、シンナムアルデヒド代謝物のケイヒ酸とカフェ酸は両効果を示さないことを明らかにした。 そこで本年度は、個体レベルでのシンナムアルデヒドによるPPAR活性化について検討した。PPARα欠損型または対照野生型マウス(129SV)に、シンナムアルデヒドを3日間、経口ゾンデを用いて強制投与し、血漿トリグリセリド(TG)濃度と、肝臓のPPAR応答遺伝子群の発現変動の解析を行った。その結果、シンナムアルデヒドによる血漿TG濃度の減少やPPAR応答遺伝子の発現誘導は認められなかった。今回用いた条件では、培養細胞系で見出したシンナムアルデヒドのPPAR活性化を生体レベルで見出すことができなかった。シンナムアルデヒド代謝物のケイヒ酸とカフェ酸は培養細胞系でPPAR活性化能を示さないことから、生体内でシンナムアルデヒドが代謝され、個体レベルでのPPAR活性化を見出すことができなかった可能性が考えられた。
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