研究課題/領域番号 |
23700906
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
原田 永勝 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (40359914)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナンセンスmRNA / 規格外遺伝子 / 選択的スプライシング / ナンセンスコドン依存的mRNA分解機構 / 過食 / 生活習慣病 / UPF1 / eIF2alpha |
研究概要 |
私たちの細胞では正規の遺伝子(mRNA)発現に加えて、選択的スプライシングにより2,000種以上もの規格外遺伝子(ナンセンスコドンを有するナンセンスmRNA)が発現する。規格外遺伝子からは、生体恒常性を破綻に追い込む異常タンパク質が数多く産生されると考えられているが、そのほとんどは同定されておらず役割と意義も明らかでない。本研究では、過食を基盤とする生活習慣病(ここでは遺伝性肥満)において発現が増加する規格外遺伝子を明らかにするとともに、生活習慣病における役割を解明する。6週齢の対照マウスおよび過食モデルであるob/obマウスを購入し、4週間飼育した。飼育終了時にマウス体重および血糖値を測定した。マウスから各組織(肝臓,白色脂肪組織,褐色脂肪組織,筋肉,腎臓,肺,脾臓および心臓)を採取しそれぞれからRNAを抽出した。規格外遺伝子(ナンセンスmRNA)を産生することがわかっているマーカー遺伝子(Tmem183A, Nktr, Srrm1, Intersectin1)について、ナンセンスmRNA/総mRNAの比(発現割合)を定量的リアルタイムRT-PCR法により解析した。結果、肥満マウスの腎臓および褐色脂肪組織(Tmem183AおよびNktr)あるいは肝臓(Intersectin1)においてマーカー遺伝子のナンセンスmRNA発現割合の増加が認められた。各組織において、ナンセンスmRNAの分解に働くナンセンスコドン依存的mRNA分解機構(NMD機構)の機能を調べるため、NMD因子(UPF1)およびNMD阻害因子(eIF2alpha;のリン酸化)をウエスタンブロット法にて検討した。結果、肥満マウスの各組織においてeIF2alphaのリン酸化亢進が認められた。以上の結果から、過食による肥満において規格外遺伝子(ナンセンスmRNA)の発現が増加する候補組織を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の主要な本研究実施計画は、(1)規格外遺伝子の発現に対する過食の影響解明(各組織一斉解析)および(2)ナンセンスコドン依存的mRNA分解機構(NMD機構)に対する過食の影響解明であった。(1)については、用いた規格外遺伝子マーカーの種類(Tmem183AおよびNktrの追加)および解析手段(RT-PCR法から定量的リアルタイムRT-PCR法へ移行)に少しの変更はあったが、いずれの場合も研究目的・目標に影響するものではなくむしろ解析の質を向上するものであった。(2)においては、ウエスタンブロット法にてNMD因子あるいはNMD阻害因子の発現解析条件が整い、おおむね当初の研究計画に沿った実験が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
過食による肥満(ここでは遺伝性肥満)で規格外遺伝子(ナンセンスmRNA)の発現が増加すると予想された組織(平成23年度の研究)について、発現する規格外遺伝子を同定する。エキソンアレイ法を導入することで、各遺伝子について、隣接する他のエキソンに比べて発現量が特徴的に増加(エキソン挿入)あるいは減少(エキソン欠失)するエキソンを網羅的に同定できる。各エキソンの配列情報から、異所性にナンセンスコドンが出現する規格外遺伝子をスクリーニングできる。その他の方法として、すでに配列が報告されている各種規格外遺伝子(ナンセンスmRNA)について、定量的リアルタイムRT-PCR法にて発現量の変化を明らかにすることもできる。ヒトとマウスの間で規格外遺伝子の種類は大きく異なる可能性が予測できることから、ヒト培養細胞に発現する規格外遺伝子(ナンセンスmRNA)の検討も考慮する。この場合、肥満マウスで見られたNMD機構の阻害をヒト培養細胞において薬理学的手法あるいは分子生物学的手法により再現する。その後、興味深い規格外遺伝子について、その翻訳領域を遺伝子導入用発現プラスミドに組み込み、培養細胞に発現させることで規格外タンパク質の機能を解析する。正規のタンパク質に対して(1)機能を持たないタンパク質、(2)機能を保持するタンパク質、あるいは(3)機能が異なるタンパク質のいずれであるかを明らかにする。タンパク質機能の解析結果をまとめ、生活習慣病における規格外遺伝子の役割を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬類として、PCR関連試薬,塩基配列解析用試薬,エキソンアレイ用試薬,細胞培養用試薬,発現プラスミド作成用試薬,細胞への遺伝子導入用試薬およびタンパク質機能解析用試薬の購入を予定している。その他、実験用の各種消耗品(細胞培養ディッシュやリアルタイムPCR用ガラスキャピラリーなど)の購入を予定している。エキソンアレイは高価であり、解析のため一部受託サービス料も必要となるため、必要最小限の解析を検討する(対象組織あるいは細胞を2種までに限定する)。国内旅費は主に学会参加の目的で、1回分で算出している。
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