研究課題/領域番号 |
23700913
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
和田 小依里 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 講師 (60420709)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / 抗炎症 / ペプチド / 日本酒 / 食品因子 / 生体内活性 / Autofocusing |
研究概要 |
日本酒は、難消化性ペプチドであるピログルタミルロイシン(pyroGlu-Leu)を多く含有している。先行実験でpyroGlu-Leuは、マクロファージでLPS誘導性の誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)を阻害するなど、抗炎症作用を有することを確認している。炎症性腸疾患は罹患者が漸増には、食生活の変化や衛生環境の変化が関与していると考えられている。炎症性腸疾患は若年発症であり、予後は健常人と大差がないもののQOLを低下させる。そこで食品による疾病改善の研究、すなわちpyroGlu-Leuや他の日本酒由来のペプチドの炎症性腸疾患改善を評価し、抗炎症作用を有する日本酒由来ペプチドを同定することを目的とした研究を行った。 エタノールなどの揮発成分を除いた日本酒分画物をデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発型腸炎モデルマウスに7日間連続強制経口投与し、腸炎の評価を行った。我々のグループで開発された、溶媒として水のみを用いるペプチド自身の等電点を利用し分画する「Autofocusing法」で日本酒を10の画分に分画を行いマウスに経口投与したところ、Fr. 8に腸炎改善効果を認めた。さらに、このFr.8を中圧分取液体クロマトグラフィーで分画し、得られたサンプルをアミノ酸組成分析し、糖、ペプチドのピ-クに考慮して日本酒分画物Fr.8画分を、4つに分画したところ、特定の分画で著明な腸炎抑制作用を認めた。 今後はこの分画を分離し、単離したペプチドをエドマン法、MS/MS法で同定を行う。生体内で食して抗炎症効果を示すペプチドを同定後は、in vivo、in vitroの両方でその作用メカニズムを評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、(1)動物実験に必要となる量の日本酒中のペプチドを、大量に分画する手法を確立する事、(2)そのサンプルをDSS誘発性腸炎モデルマウスに経口投与し、腸炎抑制作用を示す分画を評価する事を研究計画としていた。 前述の溶媒として水のみを用いるペプチド自身の等電点を利用し分画するAutofocusing法を用いて、日本酒濃縮物をLの単位で分画することに成功し、特定の画分(10に分画したうちの8番目の画分)に抗炎症作用を示す成分が含まれる事を明らかにした。さらに、この8番目の画分を中圧分取液体クロマトグラフィーで分画し、得られたサンプルをアミノ酸組成分析し、糖、ペプチドのピ-クに考慮して日本酒分画物Fr.8画分を,順番にFr.8-1,Fr.8-2,Fr.8-3,Fr.8-4の4つに分画した中の、Fr.8-3で著明な腸炎抑制作用を認めることを解明した。上記分析より、この分画に含まれる有効成分はペプチドであると考えられ、現在いくつかのペプチドは同定できている事から、ほぼ計画通りに研究は遂行できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎とクローン病からなる疾患で、ともに非特異性の慢性炎症を腸粘膜に生じる慢性疾患であり、厚生労働科学研究費補助難治性疾患克服事業の対象疾患(難病)に指定されている。炎症性腸疾患の確定的な病因・病態は未だ明らかではないが、遺伝的素因を背景として腸内環境とくに常在腸内細菌叢構成菌由来抗原に対する粘膜免疫応答の調節の変調・異常としてとらえられている。炎症性腸疾患患者と健常者では予後に大差はないとされているが、患者は比較的若年の20代に発症し、ストレス等が誘因となり増悪し、増悪と寛解を繰り返す慢性疾患であるため、罹患者のQOLは著しく低下する。食生活が発症と疾患の増悪に関与しているとされているが、そのメカニズムを含め十分には解明されていない。2007年に日本での医療受給者証は96,993件に達しており、これらの患者に対して、腸炎抑制効果を持つ食品因子を提供することはQOLの改善を含めて大いに意義があると考える。今回用いたAutofocusing法はヒトが経口摂取可能な形で食品成分を大量に濃縮することが可能である。日本酒は長い食経験があり、ある程度の摂食による安全性は担保されているといえる。ヒトへの臨床研究を最終目標とするが、本研究では、日本酒中の抗炎症性ペプチドの同定と、その分子メカニズムの解明を含めた基礎的な研究を目的とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)動物実験により腸炎抑制作用がみられた画分内の活性物質同定 マウス実験により活性のみられた画分中に含まれるペプチドを同定する。スピンカラム、HPLC等で分画し、ESI-MS/MS、酵素部分分解法などを用いた同定法で迅速にピログルタミルペプチドなどのペプチドを同定することが可能である。この技法を用いて、抗炎症効果を示すペプチドの候補を絞る。(2)同定した活性物質の合成物を作成し、動物実験で腸炎抑制作用の評価を行う。 上記手技で活性画分に含まれるペプチドを合成し、合成ペプチドをマウスに経口投与することにより、生体内で活性を示す腸炎抑制効果を有するペプチドを決定する。また、血漿、肝臓、大腸粘膜等のペプチド濃度を測定し、体内動態の評価や作用メカニズムについても考察する。(3)炎症細胞を用いた抗炎症作用機序解析 平行して、有効ペプチドの抗炎症効果のメカニズムを細胞実験にて行う。TACE活性阻害作用や、iNOS抑制評価、各種サイトカインに及ぼす影響について調べる。
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