研究課題
先進国では、客観的指標において食生活の質と量が満たされている。にも関わらず、食生活に関する不満や不安が多く、主観的食生活(食QoL)が充足されていないという問題が生じている。これに対し、心理測定法と多変量解析を組み合わせたアプローチによって解決を試みる。まず食生活を構成する諸要素における購買動機と現実の消費の乖離、及び、食生活の質(食QoL)を測定できる実用的な質問紙を作成し、大規模な質問紙調査を実施する。そして、両者の認知的関係性を構造方程式モデルを用いて解明する。このモデルに基づき、主観的食生活の質の向上をもたらすための指針を提案し、国民の食生活におけるQoL向上に貢献することを目指す。 本年度は自己乖離理論と食事効果の食QoLに与える影響を検証する足がかりとして、Steptoe & Pollard の考案した食選択質問紙(FCQ)を改変して、各食の理想・あるべき・現実の食事特性を測定するための質問紙尺度を作成した。食QoLについては、先行研究を基に、食生活満足度と食生活に関する落ち込みを測定する質問紙尺度を作成した。広範かつ偏りの少ないサンプルから知見を得るために、100人分のインターネット質問紙データを用い、各尺度の信頼性・妥当性について検証し、精度の高さが示された。 これらの検証済質問紙を用いて、MANOVAとPosthoc analysesを行い食事特性とmeals discrepancyの関係性を描出した。理想と現実の差は朝食と昼食で著しく大きく、また全食事種で自然素材性が満たされていなかった。一方、簡便性には全食事種で理想と現実の大きな乖離は起こっていなかった。このような理想領域と現実領域の非対称性は、現代の日本人が、スローフードを志向しつつもファーストフードに頼らざるを得ず、食生活の質を充足できていないという現実を浮き彫りにしている。
2: おおむね順調に進展している
(理由)本年度の研究目的である、食生活における理想と現実の乖離、および主観的QoLの関係性を研究するための質問紙法とインターネット調査方が確立された。またその結果から、変数間の関係性の構造方程式モデルを検証する為の仮説が得られた。
食生活における理想と現実の乖離と主観的食生活の質の関係性を構造方程式モデリングにより検証する。その結果を用いて、食生活全般の質を向上させるための、戦略的指針を得る。更に、得られたモデルを基に、食生活のより詳細な側面に対し、主観的食生活の質に関する構造方程式モデリングの拡張をする。
約300人分の質問紙(インターネット質問紙)調査を行う。データ収集後は、構造方程式モデルの修正に基づいて、質問紙を適宜修正し、実用的な尺度の作成を行う。最終的な構造方程式モデルの構築に際しては、現段階の信頼性を元に、300人規模の調査がさらに2回程度必要になると予測している。この調査費用が発生する。 本年度は成果の米国心理学会での発表を予定しているため、渡航費用と学会発表費用が必要となる。研究結果の打ち合わせのため、国内出張費用が生じる。 データ解析に際し、複数のコンピュータプログラムによる検討を行う必要があるため、データ解析用のモバイルワークステーションを購入する。また、統計ソフトのアップデート費用が生じる。データ解析に際し、取得データの保存メディアや解析に用いるコンピューター関連機材の購入を行う。 また、データ解釈のための参考文献を購入する。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Food Quality and Preference
巻: 24 ページ: 213-217
10.1016/j.foodqual.2011.10.002
PLoS ONE
巻: 7 ページ: e31014
10.1371/journal.pone.0031014