摂食抑制・体重減少作用を示す因子として同定されたレプチンは,ヒトでは脂肪細胞だけでなく胎盤でも発現し,胎盤由来ホルモンとして胎児の発育に関与すると考えられている.一方,マウスでは胎盤でのレプチン産生は認められないものの,胎盤由来の可溶性レプチン受容体(Ob-R)の産生亢進によってレプチン・Ob-R複合体が増加し,レプチン代謝が抑制されることでその濃度が上昇すると考えられる.このレプチン濃度の上昇は,ヒトと同様,母体の糖・エネルギー代謝の調節を介して胎児の発育に関与していると考えられる.そこで,妊娠可能年齢で付加量が設定されるなど,胎児の発育に重要である必須金属の母体栄養状態の変動が,レプチンおよびOb-Rの発現に及ぼす影響について検討した. 妊娠マウスに,必須金属量を増減させた飼料を妊娠1日目より自由摂取させ,14または17日目に採血後,胎盤および内臓脂肪を回収した.血中レプチンおよびインスリン濃度をELISA法により,胎盤および内臓脂肪中のOb-RやレプチンのmRNA発現量をリアルタイムRT-PCR法で,また,タンパク質発現量をウエスタンブロット法により測定した. この結果,妊娠時の亜鉛欠乏によって内臓脂肪のレプチン発現量,および胎盤のOb-R発現量が有意に減少し,血中レプチン濃度が顕著に低下した.一方,亜鉛過剰によって胎盤のOb-R発現量が有意に増加し,血中レプチン濃度が有意に上昇した.また,銅の過不足によっても胎盤のOb-R発現量,および血中レプチン濃度が増減した.さらに,非妊娠時には亜鉛や銅の過不足で血中インスリン濃度が有意に増減したが,妊娠時にはその変動が少なかった.よって,妊娠時の母体糖・エネルギー代謝に血中レプチンは大きく関与し,この血中レプチン濃度の調節を胎盤が担い,さらにこの調節には必須金属の母体栄養状態が大きく影響することが明らかになった.
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