糖尿病者の脳内神経伝達物質濃度は、健常者と比して減少していることが報告されており、さらに、糖尿病が認知症を発症する因子の一つであることも示唆されている。そこでさらなるこれらの関係の解明のため、本研究では、糖尿病と認知症の関係性を行動学的手法および神経生理学的手法を用いて比較検討した。本年度は、健常ラットと糖尿病ラットに一時的に健忘症を引き起こすスコポラミン(Sco)を投与した場合の、ラット脳海馬セロトニン(5-HT)放出量の測定を、マイクロダイアリシス実験を中心に行った。 実験に用いたラットは、①健常ラットに生理食塩水を投与した場合(C群)、②健常ラットにScoを投与した場合(C+Sco群)、③糖尿病ラットに生理食塩水を投与した場合(DM群)、④糖尿病ラットにScoを投与した場合(DM+Sco群)である。糖尿病ラットは、健常ラットにストレプトゾトシンを腹腔内投与して作成した。実験において、5-HT阻害薬、5-HT作動薬を直接脳内に灌流させ、各モデルラットの5-HTの最大放出量を比較した。 5-HT4阻害薬(RS23597-190; 50μM)を灌流したところ、各5-HTレベルは、ベースラインレベルと比較して、C群は0.99±0.07倍、C+Sco群は0.91±0.12倍、DM群は1.16±0.42倍、DM+Sco群は、0.94±0.19倍(各n=3-4)で大きな変化はなかった。5-HT4作動薬(Mosapride; 100μM)において、C群は4.72±5.13倍、C+Sco群は3.66±1.83倍、DM群は4.38±4.19倍、DM+Sco群は 1.80±0.25倍(各n=3-4)となり、糖尿病ラットにScoを投与した場合の5-HTの放出量は他の群より低値を示したが、有意な差はなかった。以上の結果から、認知症や糖尿病には5-HT4受容体の関与はないことが示唆された。
|