研究課題/領域番号 |
23700989
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
瀬戸崎 典夫 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (70586635)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 拡張現実 / 空間認識 / 教材開発 / 情報提示 / インタフェース |
研究概要 |
本年度は,空間認識に関する基礎調査および,試作したAR(Augmented Reality:拡張現実)教材を用いて効果的な情報提示に関する評価を行った. まず,空間的事象における課題を解決する際の空間認識プロセスを検討すべく,大学生を対象に,月の満ち欠けのしくみを題材とした太陽系タンジブル教材を用いて評価した.本教材は,模型操作と天体CGの映像が連動した直感的インタフェースを有する教材であった.空間認識力の尺度として用いたMRT(Mental Rotation Test)の得点により,被験者を二群に分類し,天体模型を操作することによる学習効果を検討した.なお,実物模型の操作による学習効果を検討すべく,立体的に構成された天体模型と平面で構成された天体カードの2種類のインタフェースを介した比較実験を行った.その結果,空間認識力が低い被験者に対して,天体模型は直感的な操作を促し,地球からの視点を提示した映像への集中力および,学習意欲を高めることが示された. 次に,AR教材における効果的な情報提示を検討すべく,「天体学習用AR教材」,「彫像観賞用AR教材」を試作し,大学生を対象に評価した.天体学習用AR教材において,講師映像の有無の観点から評価実験を行った.その結果,天体CGモデルの重畳表示に加え,講師映像を提示することによって,講師を身近に感じさせ,学習者の興味や意欲を高めることが示された.彫像観賞用AR教材において,実物大の彫像CGを提示することによって,学習者の興味や意欲を高めることが示された.また,マーカーを能動的に操作することによって,彫像観賞に対する積極性や集中力,学習意欲を高める反面,紙テキストに記載された彫像プロフィールへの関心が低下することが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,空間認識に関する基礎調査を行った.また,AR技術を活用した教材を試作し,大学生を対象に評価することによって,効果的な情報提示に関する知見を得た. 一方,本年度の研究実施計画に含まれていた「AR技術を用いた多視点型マルチメディア教材」の開発が滞っている.本年度は,天文分野を題材としたテーブルトップ型のAR教材を開発した.テーブル上に地球模型,月模型を配置し,学習者は能動的かつ自由に操作することができる.また,地球模型に小型ワイヤレスカメラを設置し,モニタに実映像を提示した.モニタに提示された月模型に対して,太陽と地球,月の相対的な位置関係によって投影される影の部分をCG映像として月模型に重畳表示した.しかしながら,使用しているAR作成ソフトウェアにおける技術的な課題により,月模型に重畳表示される影の位置にずれが生じるため,本年度までに教材の完成には至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
次年度において,本年度に開発した「AR技術を用いた多視点型マルチメディア教材」の改善を行う.具体的には,実物模型に対してCGモデルを正確に重畳表示させることである.さらに,提示する情報を追加し,効果的な重畳表示に関して大学生を対象に評価する.評価によって得られた知見を基に,多視点型マルチメディア教材の課題を明らかにし,さらに改善することで教材の有用性を高める. 次に,開発した多視点型AR教材を用いて,教育現場における授業実践により評価する.その際,空間認識テスト(MRT),学習スタイルの調査(Felder),理解度テスト, アンケート調査,インタビュー調査を実施する. 学習者の理解度を評価すると共に,質問紙法によるテストについて誤答分析を行い,学習者の理解プロセスについて検討する.また,インタビューの発話内容についてプロトコル分析を行い,理解度テストおよびアンケート調査の結果を補完する.以上の調査結果から学習者特性における空間的事象に対する理解プロセスについて検証を行うとともに,AR技術を用いた教材開発および適正処遇交互作用を考慮した効果的な活用方法について有用な知見を得る.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に完成予定としていた多視点型マルチメディア教材において,重畳表示されるCGモデルの位置の精度が低かった.そのため,教材開発が滞っており,購入予定であった物品の一部を購入していない状況である.したがって,次年度に使用する予定の研究費が生じた.次年度は,開発した教材の技術的な課題の改善をすべく,教材開発費用を設ける.購入予定であった物品に関しては,所属機関の機材を使用することによって補完することが可能である. また,次年度は,前述した教材開発費に加え,大学生を対象とした教材評価における謝金,授業実践における機材運搬費および出張費,成果の公表のための学会参加に関する出張費として研究費を使用する.
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