日本の理工系大学院教育においては、「研究室における教育」に重点が置かれてきた。しかし、何がどのように教授学習されているのかは未解明の領域である。本研究では、暗黙知の移転による教授学習に焦点を当て、理工系研究室を基盤とする諸活動の観察・記録(エスノメソドロジー)と聞き取り調査などを組み合わせ、いかなる暗黙知がどのように移転されているのかの解明に取り組んできた。H23年度は、研究室教育についての先行文献を収集整理した。また、研究室教育と両輪をなすべく進められている大学院共通教育についての諸外国ならびに国内事例の研究調査を重点的に行った。キーワードとなっているのは、参加型学習形態や、異分野融合/異質化集団を取り入れていることである。中には大学院共通教育が大学院共通教育の制度そのものにイノベーションを起こしているような事例(制度学習)も見られた。H24年度は、研究室活動や研究指導に関して指導教員側と大学院生側に対して行った聞き取り調査について、海外の共同研究者(C・マナトゥンガ)とともに分析と考察を行い、論文草稿を作成した。さらに、研究室における個人面談の参与観察音声記録データについて、分析の方法を検討した。また、前年度に引き続き、研究室教育ならびに大学院教育に関する先行研究および事例の収集を行なった。H27年度以降は、H25~26年度の研究中断期間に調査対象の教員異動などがあったため、新たな調査対象を剪定するところからの再スタートとなった。中断前は個人面談を中心に参与観察を行なっていたが、グループの進捗報告会等も対象とした。また、中断期間があったため、研究室教育ならびに大学院教育に関する先行研究の収集を改めて行なった。H28~29年度には、研究指導に関する書籍(共著)の出版に向けて原稿作成を進め、H29年度末に『シリーズ大学の教授法5 研究指導』(玉川大学出版部)を上梓した。
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